第14話 ご近所付き合い
部下に案内されてフロア端の階段へと向かう。
バリケードの向こうに気配がした。
ギャング達だ。
姿は見えないが三人か四人くらいだろう。
彼らは上階からやってきた。
隊員達が油断なく銃を向けている。
もしバリケードが突破されても迎撃できるようにしていた。
緊迫する中、俺はギャング達に話しかける。
「何の用だ。ティーパーティーなら遠慮しとくぜ」
「ふざけんじゃねぇよ! こっちは交渉に来てんだッ!」
ギャングの怒鳴り声が響き渡る。
ゴブリンに反応されるリスクは考えていないのだろうか。
切羽詰まった状況で冷静さを失っているようだ。
それからギャングは来訪目的を説明する。
ごちゃごちゃと余計なことを言っていたが、ようするにこちらの武器と食糧が狙いの脅迫だった。
協力できないのなら無理やりにでも奪うことを仄めかしていたので間違いない。
こちらの部隊は十五人。
上階のギャング達はその三倍は下るまい。
他のエリアの仲間と合流すれば、さらに数は跳ね上がるはずだ。
数で比較した場合、圧倒的な差があった。
その優位性に任せて要求を通そうとしているのだ。
(クソだな。最低のクソ野郎どもだ)
俺は煙草をくわえながら胸中で皮肉る。
ギャング達の気持ちも分からなくもない。
特殊部隊の装備は優秀だ。
最新鋭の武器が揃っている。
偵察ドローン等の道具もあるため、奴らが欲しがるのも無理はないだろう。
ギャングどもは銃を持っているが、下っ端のそれは粗悪品が多い。
転移当初にゴブリンの襲撃も受けただろうし、自衛力を高めたいのはよく分かる。
「どうしますか……?」
隊員が俺に意見を求める。
バリケードの向こうのギャング達もこちらの回答を急かしていた。
俺は短くなった煙草を落として靴底で踏み消す。
ガスマスクを被って指示を出した。
「バリケードをどけろ。奴らを招待してやれ」
俺の言葉に隊員達はどよめくも、渋々といった様子で従う。
ここで逆らっても意味がないと分かっているのだ。
日頃の教育の賜物だった。
ブービートラップを外してバリケードの一部が撤去された。
ギャングどもは悪態を吐きながらフロア内に踏み込む。
「チッ、さっさと開けろよ」
「すまんね。こっちも取り込み中なのさ」
俺は気楽な調子で応じつつ、ギャング達を先導して廊下を歩いていく。
隊員達は後方で距離を取って待機していた。
下手に刺激すると銃撃戦になると分かっているため、迂闊な真似はしないようにしている。
「おい。こうして招かれたってことは、要求は通ったと考えていいんだな?」
「まあまあ、ゆっくり話そうぜ。互いの自己紹介も済んじゃいない」
俺がへらへらと答えると、後頭部に硬い感触が突き付けられた。
両手を上げて振り向く。
そこには拳銃を持つギャングの姿があった。
銃口はガスマスク越しに額をポイントしている。
引き金にかかった指は、いつでも動かせるようにされていた。
ギャングは臭い息を吐きながら凄む。
「これが自己紹介だ。さっさと銃と食糧を寄越せ」




