風邪
布団の上、冬が夏樹を見上げる。
「その……なんか、ごめん」
「別にいいわよ。なんか欲しいものある?」
「魔剣デュランダ……」
「手に入るものにして」
苦笑まじりに答えると、ピピっと音が鳴る。冬の脇から体温計を取ると、38度。
「あー、まだだいぶあるねー」
「うぅ……」
先日、海で泳いだあと、冬は思いっきり夏風邪をひいた。
「大丈夫かい?」
「あー、うん。たぶん大丈夫」
「氷なめとき、氷」
「えー、氷ー?」
襖を開けて話しかけてきた祖母に、夏樹は微妙な返事。
「……って言ってるけど、どうする?」
問うと、冬は「うーん」とうなって布団の中に潜っていった。
「じゃあおかゆだけでも作っとくかな」
台所に立ち、祖母に鍋のある場所を聞いて料理を始める。得意というわけではないが、おかゆくらいは作れるだろう。
ちょっと焦げたおかゆと、ついでにスポーツドリンクをお盆に乗せて寝室に入る。が、冬が眠っていたので、起こさないほうがいいだろうと判断。部屋の隅に座って本を読みはじめる。
夕方、一度起きたが、そのときは飲み物だけでまた眠る。翌朝起きると熱はほとんど引いており、おかゆを食べるかと聞くと「あーん」してだのなんだの。ちょっと迷ったが、風邪だし特別ということでやってあげた。調子に乗って口移ししてと言ってきた時はデコピンしておいたが。
結局、完治したのは帰る前日。夏樹は慌てて帰り支度をすませ、祖母に別れを告げた。
帰りの新幹線、今度も冬は窓際の席。
だが冬は外の景色など見ず、すやすや眠っている。最初は壁にもたれていたが、だんだん夏樹のほうに寄ってきて、肩によりかかって腕に抱きついてきた。引き離そうと思った瞬間、寝顔に見惚れる。普段の発言がアホなので忘れているが、黙っていると冬は本当に綺麗だ。
結局、引き離すタイミングを逃し、駅についたころには腕が痺れていた。夏樹はぐったりしていたが、夏樹を枕に快眠した冬は絶好調で「明日どこ行く?」と嬉々として尋ねてきた。さすがにしばらく休ませろと断った。