両親
二学期も終わろうとする今日この頃。
冬は今日も夏樹の部屋で漫画を読んでいた。
「……なんで、入り浸ってるの?」
「えー? だって落ち着くし」
ベッドの上で足をぱたぱたさせながら、おやつに手を伸ばす。
「夏樹ー。壁ドンってほんとに効くのかなー?」
「冬くんは無理だねー。ちっさいからねー」
「うっさい」
「いてっ」
クッションが飛んできた。夏樹の頭を直撃する。飛んできたクッションを抱え、夏樹はスマホに向き直った。
「冬くん、クリスマスどうするー?」
「夏樹とデートかなー」
「そっかー」
ぽちぽちと、スマホを操作する夏樹。
「いきなりなに?」
「いや、友達からパーティ誘われたから」
「じゃあ断って」
「もう断った」
この二人の空間において、夏樹に人権はないので冬の意見がそのまま通る。
「そういやさー」
「なに?」
「俺一回も夏樹のお父さんに会ったことないんだけど、どこいるの? 死んだの?」
「……中学の時にね」
「へー」
冬はこれといった反応も示さず、マグカップのココアをすする。それからほおと息を吐き、
「——いいなぁ」
そう、呟いた。
夏樹はほんの少し、クッションを抱く力を強める。
「……冬くんってさ、お父さんと仲悪い?」
なんとなく、気づいていた。
会話の節々から滲む父への憎悪、恐怖。父親と一緒にいる時の、夏樹といる時に見せるものとは違う、夏樹が嫌いな笑顔。
冬はしばらく無言でページをめくる。
秒針の音だけが鳴る空間。ページを繰る音がとまった。
「……別に、普通」
「そっか」
それからは、また無言でページをめくり始める。
「クリスマスさー、どこ行く? またお肉?」
問うと、冬は枕に顔をうずめ、布団の中で足をばたばた。
「……っ、学校と反対方向で」
「あー、はは。また一緒にいるとこ見られるかもしんないしねー。クリスマスとか、絶対からかわれるし」
「うん。俺これ以上ひどくなったら学校やめる」
「やめるなやめるな。冬くんがいなくなったらさみしいでしょ?」
「したら俺ここ住むから」
「……お母さんは、喜ぶだろうね」
なぜか、夏樹ママは冬のことを気に入っている。むしろ、最近は自分の娘より冬を可愛がっていた。夏樹は、ほんの少しだけさみしかった。
「夏樹、おかわり」
「はいはい」
マグカップを受け取り、夏樹は部屋を出た。
それから、いつも通りの時間に冬は帰っていく。次会うのはクリスマス。来週の土曜日だ。




