表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

練習

「サイアク」

昼休み。

人気のない体育館裏。夏樹がそこへ行くと、冬は開閉一番そう言った。

「最悪、最悪、最悪っ、最悪! マジで最悪!」

座っていた段差から立ち上がり、突っ立っていた夏樹のスネを蹴る。

「いたっ」

「夏樹が断らないからじゃん!」

「え!? 私のせい!? 自分で断りなよ!」

「俺が知らない人と話せるわけないじゃん!!」

壮大な逆ギレ。

この内弁慶め……、と夏樹は頰をひきつらせる。

「ていうか、俺そもそも文化祭とか出る気なかったんだけど。体育祭だって嫌だったのに、男女のペアダンスとかあるから、サボったら怒られると思って出たけど……相手夏樹ならサボればよかった!」

その頃、二人は出会ったばかりでまだ仲良くなっていない。今同じ状況になったら冬は躊躇なくサボる。しかし、今回はそうもいかない。

「あーもー! ほんっと最悪!! 今回はサボったらクラス全員から恨まられるじゃん! もう死ね! 夏樹が死ね! んで俺も死ぬ!!」

「リアルロミオとジュリエットしなくていいから」

「うるさい!!」

冬は不機嫌に座り直し、パック牛乳のストローをがじがじかじる。

「ていうかなんで会いに来たの? 今会ってるとこ見られたら絶対まためんどくさいことなるじゃん!! しばらく近づかないで!!」

「え……」

きっぱりと拒絶され、けっこうなダメージを受ける夏樹。

夏樹が固まっていると、冬はどんどん不機嫌になっていく。

「ねえなんでどっか行かないの? ……っ、じゃあもうい。俺が違うとこで食べる!」

そう言い残し、冬は弁当を持って立ち去る。どこか人気のない、落ち着けるところで食べるのだろう。夏樹はとっさに追いかけようとしたが、冬の言葉が足止めする。

——しばらく近づかないで!

思い出すだけで胸が痛む。今追いかけても火に油を注ぐだけだ。とにかく今は時間をおいて機嫌が直るのを待つしかない。夏樹はとぼとぼと教室に戻った。


「はいはーい、じゃあー、脚本ができたのでー、演技の練習しまーす」

委員長が声をかければ、役者が台本を取る。

とりあえず主演の二人で読み合わせということで、夏樹と冬が向かい合った。

が、

「もう一度話しておくれ、輝かしい天使。そう、まさしくあなたは私の頭上にいる天使なのだ」

「……っ…ぉ…、ロ……っ…、………てっ、……ミオ……?」

「数多の剣など怖くはない、私はそれよりあなたの瞳が恐ろしいのだ。その優しい眼差しを向けられていれば、私はどんな大軍にだって向かっていける。多くの人の憎悪によって殺されるより、あなたなしで生きながらえるほうが辛いのだ」

「……え……っ、……っ……か?」

はきはきセリフを言う夏樹とは対照的な冬。それを見た外野、ぽつりと漏らす。

「ねえ、あれ聞こえる?」

「いんや、なんにも聞こえん」

「斎藤くん、演技とか無理じゃね?」

「えー、でもビジュアルは完璧」

「そー。下手にうちらがやるより絶対可愛いよね」

はいカットー、と委員長が待ったをかける。

「斎藤くん、もうちょっと声出そ、声」

「そうだぞー、そんなんじゃ千の仮面を持つ少女になれないぞー」

「なにそれ? ていうか斎藤くん少女じゃないでしょ」

「いや、わかんないぞ。うち体育でプールないし。修学旅行のお風呂まで真相は謎」

「あ、そういやうち中学の修学旅行でさー」

そんなこんなで、女子の話題は無関係な方向へずれていく。その隙に冬はすっとクラスメイトたちの間をすり抜け、後ろの壁際でしゃがみこみ携帯をいじり始めた。冬が動いたことに気づいたのは夏樹だけ。板についたステルス行動。

結局、その日はほとんど練習せずに終わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ