プロローグ 01
世の中には顔の良さには二つある。可愛い子か、美しい子か。
そしてディアリスタ侯爵家では生まれてきた双子の女の子が丁度その二つに分かれたのだ。ーー可愛い子と美しい子に。
可愛くて優しい私の双子の妹はとても人気があり、人望がとにかく凄かった。私は近寄り難いせいか人付き合いが出来ず、妹にはお世話になりっぱなしだった。
そんな可愛い妹に婚約者が出来た。15歳という若さで。
とても喜ばしい話だろう。ただ、時期が少し悪かった。
「マリー、どうするのよ。婚約が決定した日に限って〝これ〟が届くなんて…」
これとは机に置いてある王家の家紋がついているとても高そうな封筒のこと。
「〝マリスリー・ディアリスタ、後宮に入ることを命ずる。二日以内に荷物を纏めておくように〟」
封筒にはそのようなことが書かれてあったのだ。
王族からの直々の命令。侯爵家からしてみれば無視出来ない。
ただ、命令に従うのも困難なことだ。
「後宮に入る、とのことは殿下に抱かれろってことですよね? 絶対に嫌です! 私はトルテ様以外の殿方に抱かれる気など毛頭ございません!」
……そう、これなのだ。
マリーは可愛い。そう可愛いのだ。そのせいで周りにチヤホヤされて来たので少し我儘を言う時がある。
だがマリーの気持ちは分からなくもない。私だって好きな人がいるのに殿下とあれやこれやらをしたくない。
……好きな人がいたことがないから正直よく分からないけど。
「でもね…王族からの命令、しかもわざわざマリーに指名が来ている。どうすることも出来ないのよ」
「でも嫌なものは嫌なんです! 今日トルテ様が挨拶に来てくれる日に限って…! これだから王族は……!!」
「それ以上は駄目だよ、マリー。侯爵家と言っても近年は成績が著しくない我が家は首チョンパされるんだから」
「うぅぅ……」
気が乗らないのは分からなくもない。だけど、どうしようもないのもまた事実。それに王族みたく権力があるならまだしも影響力もあまりない我が家は断ったら幸先が良くない。
「マリー!マリーー!!」
お母様とお父様が全力疾走でこっちに来てるけど大丈夫かな?
「ああああぁぁぁー!!!」
こけたな。年取ったせいか二人は何も無いところでよく転んでしまう。鈍臭いのもあるけど。
「お姉さま」
「なにマリー?」
裾をちょいちょいと引っ張ってこちらを見てくる姿はまさに天使だ。そこに上目遣いが加わることによって聖女に見えなくもない…! 本当に私と違って可愛い。
「私だって考え無しで嫌だって言っているわけではありません」
「うん、そうね。マリーは賢いもの」
「だから私の身代わりになって下さい、お姉さま」
「うん、そう………。うん? 今なんて言った?」
「言質は取りましたわよ、お姉様!」
いや、だから何て…?
「身代わり引け受けてくれるんですよね?」
「うん?」
話が見えないんだけど。
話を理解出来ていない私は馬鹿なのだろうか?
「身代わりって私がマリーの代わりに行くってこと?」
「はい、お姉さま」
「いやいやいや、私とマリーは容姿違うから無理でしょ?」
「一応私たちは双子なんですよ? 化粧したらバレません!」
待って、この子はいつのまにか脳内お花畑になっていたの?
双子なんて誰に言っても信じてくれないレベルよ? 化粧でカバー出来る顔立ちではない。
第一、私も好きでもない男に抱かれるなんて嫌に決まってる。だからと言ってそこにマリーを行かせるのも気が引ける……。
「私は人付き合いも良い方です。化粧が得意な友達ぐらい十人はいます」
多いな! 私はゼロだぞ! 双子でどうしてこんなに違うのだろうか……。神を恨む。
「その中でも本日来れて秘密厳守出来て後宮に連れて行ける友達を連れて来ました! そのせいで人数は限られてしまいましたけれど……。でも二人いれば何とかなりますから安心して下さい!」
普通はそんなに条件が合う友達なんていないと思うけど……。
あれ? 何かマリーに勝手に話進められている気がする。
「あとお姉さま、少し真面目な話もします」
「は、はい」
急に改められるとこっちが困惑してしまう。
「この時期の後宮入り。少し嫌な予感がします。後宮が作られて早一年も経ちました。なのに今まで私たちには後宮の〝こ〟の字も全くと言っていいほどありません」
「確かに、……そうね。何か意図があると思ってもいいと思うわ」
「あと単純に怖いです。後宮の人達の人攫いが続き、3名もいなくなっています。この可愛い私に目を付ける可能性があります…!お姉さまなら武道もやっていたので退治出来るのではないかと!」
………なんか複雑なんだけど。
久しぶりに真面目な話をしたかと思えば最後にはあれだし。
だけど、可愛いマリーに傷をつける輩は退治しておかなければならない。この私の拳で!
「お父さま、そういうわけでよろしいですか?」
「むぅ……」
いつからいたのか分からないお父様がそこにいた。
お母様も隣にちゃんといらっしゃる。マリーと話していたせいで目に入らなかった。
「なあ、考え直してくれないか? さっきもエリーが言っていたように私が首チョンパされるかもしれないんだぞ?」
「お父さまは少しビクビクし過ぎです」
「でもなあ…?」
エリーと言うのは私の名前だ。エリシエナだからエリーと呼ばれている。
「確かに婚約するエリーの言い分は分かります。なら普通に王族の方々に婚約するので行けれません、と言えばいいでしょう?」
「あ、確かに」
すっかり忘れていたけど普通に言えばいいんだ。
身代わり云々で頭からすっぽり抜けていた。
「勿論、それは考えました。ただ三連休があるので手紙を出すと最低でも五日はかかります。なら馬車での移動だと二日ギリギリです。それだと王族は良い顔しませんでしょう。……それにそんな高速球な馬車を私たちの家が借りられるかは分かりませんけど」
確かに侯爵と言っても他の貴族と比べてあまりお金に余裕はない。
「つまり、マリーが言いたいことはこう言うこと? 手紙を出すには時間が足りない。それに後宮ではもう準備が進められている。なのにあまり成果を出していない侯爵家が断ると大変なことになりかねない」
この国では現在二つの派閥が存在している。
貴族を大切にする貴族主義派か平民を大切にしてこその平民主義派か。当然のことのように平民主義派など少ない。
我が家は平民主義派で人数が少ないせいでお父様はその幹部にされてしまっている。そのせいで派閥に傾きが起こると、意見が通りづらくなる。
「マリー、そんなに気にしなくてもいいのよ? 所詮は夫はお飾りにすぎないから意見が通るかなんて今更よ?」
「酷い!酷いぞ!大切なことでもあるだろう!」
お父様が泣きだしそうな顔をしてお母様に反論しているけど普通立場は逆だよね?
「……お父様、お母様。やっぱり私が行きます」
「どうした? なぜ急に」
ああ、そうだ。迂闊だった。派閥で思い出した。
「後宮に入っている貴族の派閥、お父様は把握してますか?」
「一応な。22名が貴族主義派、7名が平民主義派といったところだろう。あとの8名が中立派だったような」
「……で人攫いにあったのは平民主義派の3名。元は平民主義派の人は10名だったはずですよね?」
マリーは最初にヒントを出してくれていた。
〝この可愛い私に目を付ける可能性があります〟と。そんなピンポイントに目を付けるかと思って特に考えなかったが、よくよく考えればそうだ。
後宮ではこの見た感じだと、きっと平民主義派の人たちが心細い思いをしているだろう。幹部である父の娘が行くことによって少しは持ちこたえることが出来る。
……王族は断れないと思ってこの話を持ちかけて来たんだろう。
「マリーは頭良いわね」
「ふふ、もっと褒めて下さい! ですけど沢山情報を集めた私ならともかく、お姉さまはすぐに理解してくれました! 本当にお姉さまを誇りに思います!」
そう言われると私は調子に乗ってしまう。この子は本当に分かってやってるのか疑わしい。
「ねえ、情報ってどこで? こんな情報、お父様はともかく私もお母様も知らなかったのよ?」
「ともかくってなんだ!父の扱いが段々酷くなって気がして来たぞ!」
お父様は普段ぼけーっと過ごしているから仕方ないとして、お母様と私はそれなりに情報通なはずだ。なのに人攫いがあった人が平民主義派なんて。平民主義派の人たちでもかなり地位が下の方だと情報は回ってこない。
トントン、とノックが聞こえて来た。
誰か来る人いたっけ?
「客人をこちらに呼んできました」
「マリー、お待たせ」
身長は190cmほどあり、とても大きい人が入ってきた。
それになんと言っても、
ーーなんというイケメン!誰だ!あれ!?
「トルテ様! ご紹介します、こちら私の婚約者のトルテ様です。今回の情報をリークしてくれた方で、この国の宰相になります♪」




