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ただ、青い。  作者: 小鳥遊 雪都
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広がる青い世界。

紫月しづきさん?」


そう私の名前を呼ぶかなえを私は無視してかなえを引き摺るようにずかずかと砂浜を歩いた。

波打ち際に着く前にサンダルは砂浜に脱ぎ捨て、そのすぐ横にスマホと鍵を投げ落とした。


「あの・・・紫月しづきさん? どうしたんですか?」


困った声でそう訊ねてくるかなえを私はクルリと振り返り、見つめ見た。

振り返り、見つめ見たかなえはやはり、困った顔をしていた。


「・・・泳ご!」


私がそう言うとかなえは目を丸くして『待ってください!』と慌てた声をあげた。

それは私が想像し、望んでいた反応だった。


「泳ぐって・・・水着じゃないし・・・クラゲだっているかもしれないのに・・・」


その言葉は凄く正論で何の面白味もないものだった。

それが可笑しくて私は笑っていた。

私は困り顔のままのかなえの手を離し、一歩二歩と打ち寄せる波に歩を進め入れた。

9月のはじめの海の水は少し、冷たかった。


紫月しづきさん・・・」


私の名前を呼んで私の横に来たかなえは困ったままの顔で笑っていた。


「・・・泳ぎましょうか? せっかくだから」


かなえのその言葉に今度は私が目を丸くした。

そんな言葉がかなえから返ってくるなんて予想だにしていなかった。

何より、本気で泳ごうなんて流石の私も思っていない。


「・・・泳ぎましょ! 紫月しづきさん!」


「あ、ちょっ!! まっ!?」


かなえはそう言うとニコリと笑って私の手をぐいぐいと引き、海へと走った。

抵抗すればかなえとは体格差があるのですぐに止まれたはずだ。

それなのに、私は抵抗もせずかなえのその奇行を受け入れた。

バシャバシャと飛び跳ねてかかる飛沫が眩しかった。

打ち寄せる波の音は心地よく、肌を焦がす陽射しの強さは夏の終わりをひっそりと告げていた。

かなえの声が聞こえた。

風を纏い、熱を纏い、命を纏って・・・。

そこからじわりじわりと色が少しずつ生まれて滲み、広がる・・・。

私の世界の色が少しずつ変わる・・・。

今はただ、青い。

今はその青に溺れていたいと思った。

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