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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界IN

異世界 IN 「ノ|大由し(俺)」 その5

作者: 秋月みのる

異世界に転生する日本人主人公は何故か大概無双します。

……だけど、それと同じくらい異世界について早々におくたばりになる日本人もいるのではないかと作者は思います。これはそんな話です。


 ――どうしてこうなった?


 肩口から無くなってしまった左手と、すっかり団子になってしまった自分の右手を見て俺はそう思った。


 俺はポルタって神さまから「『遠距離』から『最強の攻撃力』で『一方的』に攻撃出来る」最強のチートを貰って異世界にやって来たはずなのに。

 この力があれば俺は異世界で無双できると思っていた。


 俺の貰ったスキルの名前は「ストライクパージ」

 体の一部を弾丸のように切り離して飛ばすことが出来る能力らしい。

 この世界に来るまで俺はロケットパンチのような物だと思っていた。

 敵にぶつけたら自動的に腕に戻ってくる。そんな能力を想像していた。


 だから異世界に来て早々遭遇したゴブリンに左腕を射出して思いっきりぶつけてやった。

 するとゴブリンは爆散。最強の攻撃力は伊達では無かった。


 俺は仕留めたゴブリンから左腕を回収した。

 そこで疑問に思う。左手は完全に脱力している。

 切り離したからあるべきはずの断面も見当たらない。肩口の方もそうだ。

 最初からそうであったかのように独立していた。

 俺は肩に左腕を宛がった。

 だが、くっつく気配は無かった。


 ……もしかして、一度切り離したらくっつかない?


 次第に俺が手にしていた左手はしおしおと朽ちていき最後は土へと帰った。


「ふざけんな! ふざけんなよおおおおおおおお!」


 叫びを上げると魔物が寄ってきた。緑色の小男だ。

 どうやら俺が転生したスタート地点は魔物がいる森だったらしい。


 俺はチートに頼ろうかと逡巡。

 だが、ぽんぽん使っていたら俺の体はすぐに無くなってしまう。

 仕方ないから残った片手で落ちていた木の棒を拾って小男と交戦することにした。

 この小男は前世でやったゲームのゴブリンに似ているから便宜上そう呼ばせて貰おう。


 小男の力は意外と素早く力強かった。

 片手であまり力の入らない攻撃じゃ御しきれる相手じゃなさそうだった。

 証拠に俺の持っていた木の棒はゴブリン棍棒で半ばからぱっきりと折れた。

 俺はゴブリンに棒きれを投げつけ、慌ててその場から逃げ出す。

 倒せば安全だが、チートで倒すにはそれなりの犠牲がいる。


 しかし、その先でゴブリンの集団三体と遭遇することになる。

 挟み撃ちだった。

 倒すしか無い。だけど倒すにはどうしたらいい?

 腕は二本しか無い。一本は使用済みだ。でも指は五本ある。

 俺は指を三本射出した。生きるための最低限の犠牲だと割り切った。

 銃弾の如く放たれた俺の指はゴブリン共の眉間にしっかり撃ち込まれた。

 どうやら撃ち込みたいところに狙い通り飛んでくれるホーミング機能があるらしかった。


 ――ガサリ。


 背後から足音。

 俺はやけっぱちに四本目の指を射出する。ゴブリンは絶命。

 その直後、


 ヒュッ。


 と風切り音が俺の頬を掠めて飛んでいった。

 どうやら弓持ちのゴブリンが藪に潜んでいたらしい。遠距離攻撃には遠距離攻撃。

 俺は最後の指まで失った。


 生きるのに夢中で気づけば凄惨たるありさまだった。

 ここで話は冒頭に戻る。

 俺は異世界に来てものの五分で片手と指を全部失った。


 ――腹が減った。


 転生前に飯を食っていなかったせいか腹減ったままの転生だった。

 いくら何でもサービス悪すぎだろ。


 しかし運がいいことに俺はすぐ側に赤い実のなる木を見つけることが出来た。


 食べられるなら何でもいい。俺はその木に一目散に駆け寄った。


 ――そして気づいてしまった。


 もう自分が『掴む』というアクションを出来ないと言うことに。

 俺に出来るのは棒きれ同然と化した右腕を振り回すことのみ。


 今更ながらにその絶望が俺を襲ってきた。


 「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 言葉にならない叫びを上げる俺。それでも木の実は落ちてこない。

 叫んだ事で変化があったとすれば、体長五メートルを越す異常な大きさの熊が現れたことだけ。

 無我夢中で俺は右手をパージして熊にぶち込んだ。

 熊の土手っ腹に大穴が開く。しかし熊は絶命しない。

 それどころか怒り狂ったような叫びを上げて俺に突進してきた。

 

 ――逃げなきゃ。


 どうやって逃げる?

 普通に逃げたら間に合わない。俺も負けじと走り始めたが距離がガンガン詰められている。

 それこそ乗り物に乗って超加速し合いと間に合わない。

 しばらく走っていると急に森が開けて草原に出た。


 ――そこで俺の脳内に飛来するあまりに思いつきたくなかったひらめき。


 それは足首を切り捨てて本体を飛ばして逃げるトカゲの尻尾切りのような作戦だった。

 選択肢は無い。俺は足首を切り離した。

 途端に加速する俺の体。草原をロケットのように突き抜けていく。

 熊との距離がぐんぐん離れる。だが熊は諦める素振りを見せない。

 俺はロケットのパーツ切り離しの如く更に足を切り離すことに決めた。

 最小限の被害で済むように輪切りのように小出しに切り離そうと思った。

 だがそれは出来なかった。

 最低でも間接単位じゃないとパージできないようなのだ。

 仕方なく俺は膝から下を切り離す。

 俺は再加速。

 錐もみ回転しながら熊を遙か後方にぶっちぎって見えなくなるまで飛空移動し続けた。


 やがて背中から地面に着地した俺は地面に身を削られるようにガリガリガリガリとしばらく身を引きずってようやく静止する。想像を絶する痛み。


 「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 「ストライクパージ」は痛みが出なかったのでこの世界に来て初めて痛いという感覚だ。

 背中のシャツは破れて皮膚も破れて真っ赤に染まっていることが想像に難くない。


 「……ひっく。ぐすっ。俺が何したって言うんだよぅ」


 他人の借金背負わされた挙げ句、保険金までかけて殺されて、どうにか神さまに命を拾って貰ったと思ったらこの有様だ。

 俺は異世界で今度こそまともに生きたかったのにこんなのあんまりだ。

 

 泣きわめく俺の周りに、血の臭いを嗅ぎ付けたのか狼の群れが現れた。


「畜生! 畜生! 畜生! やれるだけやっってやるううううううううううううううううっ!」

 

 残った両足を打ち出した。次は胴体を打ち出した。

 それでも狼は死にきらない。

 ついに頭だけになって俺は動けなくなった。頭蓋になったらもう分離は出来ない。

 狼たちはばらばらになった俺の体は食ったが、殆ど骨で構成される頭部には興味が無いようだった。 

 

 俺は平原に取り残された。


 三日三晩、一度は雨に晒された後、胴体から栄養の供給が出来なくなった俺の頭部はついに生命力を失い土へと帰った。



 気がつけば真っ白な空間にいた。

 ポルタという神さまが俺を見て大爆笑していた。


 「いいね。凄くいいよ。中々見応えある死に様だった。気分がいいから一つだけ言うこと聞いてあげるよ」


 「……ただ生き直したいです。特別な力も何も要りません」


 「ん~、いいよ。聞いてあげる。面倒だから能力はそのままでいいね。一回も使わなければ影響ないでしょ。僕も次呼ぶだけだしね。じゃ」

 ……確かにその通りだと俺は思った。

 体を切り離せる能力があっても、切り離さなければ普通の人間と同じ事もまた道理だ。


 そう思ってもう一度命を与えられた俺だったが、二週間後にはまた首だけになって力つきた。


 ……どうにもこの世界は普通の人間がまともに暮らせるような生やさしい世界ではなさそうだと確信を持った上で。この世界の人間は俺以上にたやすく死んだ。

 死んでも何故か同じ人間が翌日に復活している。意味がわからない。

 毎日ドラゴンが街を焼く。おかしなサイズの竜巻が頻繁に襲来する。

 そしてこの世界は非常に狭かった。十キロ四方のサイズしか無い。

 平原と森の中に街が一つあるだけだ。十キロ四方の外には闇しか無い。


 ……この世界は狂ってる。まるでポルタという神のおもちゃ箱だ。

 どう言う経緯かは知らないが、ポルタは決められた範囲の世界を与えられてその中で自由に遊んで喜んでいる子供のような印象を受けたのだ。

 大を活かすために小を切り捨てるような言うなれば必要な犠牲。

 まるで誰かポルタから大事な物を守るべくが意図的にそうし向けたとしか思えない。

 恐らくその人物はポルタに強く出られないのでは無いかと思う。

 その人物がいるかはわからない。俺の突拍子もない勘でしかない。


 ……いや、よそう。もう俺には関係の無い話だ。

 消えゆく俺に出来るのは次なるターゲットが残酷な死を迎えないように祈る事だけだ。

 誰でもいい。いつかポルタとか言う悪神を痛い目に遭わせてやってくれ。



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