第6章 発覚
第2部開始です!
──このタオルは吸収性が悪いな。
そんなことを考えながら、私は軽トラックの助手席で父さんを待っていた。
私のいるこの空間は、実に換気性が悪い。蒸し暑くて仕方がない。何だってこんな所に10分も20分もいなくちゃならないんだ。
この中で出来ることと言ったら、今いる駐車場の前を通り過ぎて行く車のナンバーの数字を全部足すとか、白鷺さんに習ったばかりの知識で、立て掛けてあるカンバンの日本語を全部英語に訳すとかそれくらいだ。
ひょっとするとこの退屈が、私の体感している蒸し暑さを上昇させているのかもしれない。そんな風にも感じる。
こんなことなら、私にも作業を手伝わせてくれればいいのに。何を急に改まって、
「この荷物は重たいから」
だ。
今まで散々重たい荷物なんて持って来た。それに荷台に荷物を詰め込んだ時には、今までよりもはるかに重たいのなんて無かった。
何か怪しい取引でもしてるんじゃ……なーんて。
「悪ぃ悪ぃ」
作業を終え、徐ろにドアを開けながら、“お父さん”──海凪 智は言った。
「ほら」
と、彼は私に何か手渡す。
それは、キンキンに冷えていて、表面に結露の付いている、私のお気に入りの缶ジュースだった。
「詫びの印、ってヤツだ」
「……ありがと」
「お?……照れてんのか?一人前に」
「てっ、照れてないっ」
──照れてた。
たまにこの人は、私の心を見透かす超能力者みたいに、私の望んだことをしてくれることがある。
これだから彼は憎めない。
私は俯きながら、缶のプルタブを開けた。
“あの日”から丸5年が経った。
私が、海凪 希良梨と名前を変え、この男の“娘”になった“あの日”が、まだ昨日のように思える。
あの直後、私は電脳にチップを入れられ、元の私に戻った。
いや、戻ってはいないか。生まれ変わった、の方が適切かもしれない。
チップ組込手術の際に使用した麻酔が切れ、目覚めたばかりの私に対して、白鷺さんがルールを課した。
その1、『海凪 希良梨として、海凪 智と親娘関係にある状態で生活すること』。
まあコレはわかる。
と言うより、そもそもコレを条件に、私は生まれ変わったハズだ。
その2、『更衣、入浴など、性的問題が発生する際以外は、智から離れないこと』。
わからなくはない。
いつどんな時に、魔の手が迫って来るか定かではない。
その魔の手の持ち主が、警察だったらまだしも、ウラの奴らなら取り返しがつかない事態になる。
その3、『他の人間の視界に入る場所や、防犯カメラがあるだろうと思しき場所では常にマスクを着用すること』。
コレは、当時の私の理解の範疇を超えていた。
「何故マスクを?」
と私が問うと、
「これからは、たとえ君の名前を知らずとも、顔形は知っている、という人だらけになるからな」
と若干の濁りを含ませて返して来た。
当時の私はいよいよ解らずじまいだったが、私が14歳になった時に、ようやく真意が把握できた。
私の顔が、“捜索中”という文字と共に、テレビ、ネット、新聞に掲載されていたのだ。
時は2110年。
【“人造人間”案件基本法における“人造人間”返還に関する項】の中で、“人造人間”ゼロの実現を目指した、ちょうどその年だ。
国の提示してきた、返せばお礼、返さなければ無期懲役という、ある種究極の“アメとムチ”であるそれに国民──そして“人造人間”──たちが従った結果、日本国中、ひいては世界中に存在していた全ての“人造人間”は政府などの管理下に下った。
しかし、ある1人、もとい1体の“人造人間”だけが、彼らの手元に無かった。
2095年製造済の“女性人造人間”、NHFW-1000だ。
同年末に、S県G市の皆木家に提供された彼女は、2108年に姿を消した。
“国民名簿”にも載っていない名前──皆木 姫花──が彼女の名前だと、元所有者である皆木氏は訴えるが、確たる証拠は無く、それが本当の名前だと認められることはなかった。
“国民名簿”には、肖像写真の登録を義務付けられたが、やはりその顔に適合する名前はなかった。
マスクさえ着用していれば、警察の視界に入っても即座にバレることはない。
目、鼻、口、それらに留まらず、凡そ30の特徴をキャプチャ・解析して、“国民名簿”や警察の持つデータと一致すれば、初めてその人物とみなすからだ。
以上3つのルールをきちんと守り、私はこの5年という月日を暮らしてきた。
普通に生きていれば、ちょうど高校2年生になる。
きっと部活とか恋とかしてたんだろうなぁ、と時々高校生を見て羨望する。
私の身体も、随分成長した。
身体は丸みを帯びてきて、よく父さんにからかわれる。身の丈は正確に測ったことは無いけど、たぶん160センチくらい。胸も大きくなった。腰も細いし、きっと“理想体型”ってやつに近い身体つきだと思う。
どうせだったらこんな身体を見せびらかすように歩いてみたいものだが、そうもいかないのが私の現実。
私は今、お父さんと共に“配達員”として働いている。
今の“配達員”は自営業の形態が主流で、自己で作ったオリジナルのホームページに届く注文を承り仕事を行う、所謂 (いわゆ)“仲介人方式”が殆どだ。
また最近は、そのホームページを作る為の専用のソフトウェアも存在する。
現在も未だ取り沙汰される過労問題を背景に、
注文を受けた順番、その届け先の位置などの情報を基に、最短かつ効率的なルートを作成したり、配達予定時間を整理して、一定の量に達すると、自動的にその日の注文を締め切るシステムなどがプログラム出来るようになった。
今日の注文は比較的少ない。が、届け先が一つ一つ離れている。
こんな時は“空高速”の出番だ。
「次の届け先、って何処だっけか」
“空高速”を走る最中、お父さけんが私に尋ねた。
「M市E町の……あ、“アップライトストリート”だよ」
“アップライトストリート”。
5年前、お父さん──当時は松月 之親だった──が暴走し、私の身体を狙った男と激しい追車走劇を繰り広げたその舞台、“ストレートストリート”。
それに対抗するように作られたのが、この“アップライトストリート”である。
単語の意味は両方とも、“真っ直ぐな街路”。その名の通り、ただ真っ直ぐな道が気の遠くなるほど長く続いている。
“アップライト”の方がやや長く、代わりに商業施設は“ストレート”に比べて少ない。
「“アップライト”か……。人が多いな。希良梨、マスクを……」
「判ってるってば。ったく、コレ結構暑いんだよねぇ……。何だか不良みたいだし」
お父さんの言葉に被せるように私は言った。不満を漏らす私を、お父さんは笑った。
「仕方ないさ。お前を守るためのことだ。これくらいも守れなきゃ、かつての友に会うことは出来ないぞ」
「……うん」
仕事とかで疲れたり、所謂欲求不満に近い状態になったときにふいに愚痴ると、お父さんは決まってこう言う。
その為に、私は今のようなことをしているのは判ってる。反論も出来ない。けど──。
「ほら、もうすぐだぞ。早く付けろ」
「……オッケー」
私は不織布製のマスクの紐を耳に引っかけた───。
“アップライトストリート”は、言うまでもなく、人が多い。今だって水曜日の午前中だと言うのに、何だこの人だかりは、と叫びたくなるくらい人がいる。
これだけの繁華街のため、ストリートには駐車スペースが定められ、それ以外の場所に停めた瞬間、誰であろうと罰則対象になる。
今回の届け先は、ストリートのまさに端っこにある集合住宅。そこに最も近いスペースに停めたが、そこからもなかなかに遠い。
約500メートルずつ、ほぼ等間隔に設けられた交差点を、3つ渡らなければならない。しかも、スピード超過にならないように、必ず2つ以上の信号に引っかかるように計算されてある。
それは歩行者信号も同じだ。最悪の場合、3つ引っかかる。
これだけは避けたい。何故って、大切で重たい荷物を持ったまま、ずっと待機しなければならないからだ。
「ほら、荷物だ。重てぇぞ」
と言いながらお父さんが渡してきた荷物は、確かに重たかった。さっきまで重たい荷物は持たせないだの何だの言っていたのに、容赦の無い人だこと。
重たい荷物は何故か小さいが、軽い荷物はやたら大きい。よって視界が遮られる。
お父さんがトラックのキーを施錠したのを確認すると、周囲の状況を把握する。幸い、人の波は瞬時止んだ。この隙に乗じ、私はその波に突入した。
女子大生らしき2人が、キャッキャと甲高い声でしゃべっている。カワイイね〜、と互いを褒め合う彼女たちの目は、狩り真っ最中の猟師のよう。
彼女たちと同じくらいの年と見受けられる、1組のカップル。チェック柄のシャツを羽織る彼氏の方も、フリルの付いたスカートを履いている彼女の方も、傍から見ると頼りないことこの上ない。
缶コーヒーを飲みながら、私と同じように人間観察に耽っているのであろうサラリーマンの頭は寂しかった。何かに失敗したのか、心無い言葉を浴びせられたのか、あるいはそれ以外かは知ったことではないが、とにかく彼は黄昏れていた。
……と言った感じで人間観察をしていながらとかでないと、こんな仕事耐えられない。もちろん前方後方に警戒はしているが、それだけでは神経が削がれるばかりだ。
辺りをキョロキョロ見回しているのを、お父さんに「危ない」と注意されながら、私は一つ目の交差点に着いた。
「荷物置いていい……?」
私は息を混じらせながら問うた。
「何言ってる」
しかし彼の答えはノーだ。
「大切な荷物なんだぞ。箱にだって傷をつけちゃならねぇ」
「えー」
という言葉は、音にならなかった。
しかしそんな私の項垂れる様子を見てお父さんは、信号が青に変わり、歩き始めたとき、私に耳打ちした。
「それくらいするのが、世間一般の“配達員”の常識なんだよ」
と。
なるほど、と納得せざるを得なかった。
二つ目の交差点に向かっている最中、通り過ぎて行く人の視線が気になった。
──なんで“配達員”がこんな所を……!しかも大きな荷物持ちながら──
──邪魔なのよ……!ただでさえ人多いのに──
たとえ見ずとも、そんな意思を帯びた視線が浴びせられているのは十二分に把握していた。中にはそんな内容をワザと聞こえるように呟くヤツまでいた。
別に私たちだって好きでこんなとこを歩いているわけじゃない。従うべき法に従って、届けるべき人に届けるべく、ここを歩いているんだ。
と投げかけてやりたかったが、それから始まるいざこざくらい目に見えていたから、当然何も言わなかった。
いつの間にか、2つ目の信号。
それに気づいた時、既に青の歩行者信号は点滅していた。
こんな荷物を持っている状態で走って、万が一、荷物を落として仕舞えば収集がつかない状態にもなりかねない。
そうした思考に落ち着いた私は、歩道の端に逸れて、次の信号までやり過ごすことにした。
今さらながらではあるが、なんて交通量の多い道路なのだろうか。
“アップライトストリート”とは言え、交差点はある。ストリートを横切る形になる車も、決して少なくない。
通り過ぎる車の色は、ほぼ8割が白か黒。残り2割のカラフルなカラーリングの車を見ると、一瞬目がチカチカする。
視界に入ってくる情報ばかりに意識を集中させ、気を紛らしていたが、それにも限界があった。
荷物を支えている腕が、悲鳴をあげ始めた。
無理もないことである。さっきまでジュースだとかマスクとか、軽いものしか持たなかったのに、急にこんな重いものを持たせるなんて、差が激しすぎる。
だが、信号はあと1つだ。それだけの辛抱だ。それを越えて荷物を届ければ終わりなんだ。私は、自身の思考にそう言い聞かせ、何とか苦を乗り越えようと努めた。
「変わったぞ」
荷物で前が見えていなかった私に、お父さんが知らせてくれた。うん、と頷いた私。
なるだけ他の歩行者の妨げにならないように、と歩道の端に寄る。だがそれは、横をビュンビュン通り過ぎて行く車にも警戒をしなければならないということだ。
車たちは、次の信号で止まるまい、とアクセル全開で飛ばして行く。それの作り出す風に、荷物ごと吹き飛ばされそうになる。次に悲鳴をあげ出すのは脚になりそうだ。
──あと300……!……あと200……!──
心持ち早歩きといった具合のスピードで歩きながら、『脚よ持ってくれ』と言わんばかりに、カウントダウンを心の中で始める。
実際のところ、100メートルも歩いていない。感覚的距離ではあるが、まだ50メートル行くか行かないかくらい。
それでもそう言い聞かせて脳を騙さないと、それだけしか進んでいないという現実に、心がやられそうだから。
そうして何とか、歩道を抜ける所まで来た。
心が何かから解放された。私に精神的苦痛を味わわせていた、何かから。
そんな私が横断歩道に3歩ほど足を出した瞬間、歩行者信号は赤に変わった。
戻ろうかとも考えたが、既に横断歩道の真ん中と言われてもおかしくない地帯に来ていた。だからやめた。
赤信号になることを見越したのか、お父さんは歩道で待っていた。
「先に行って向こうで待ってる!」
私は、その視界の端でやっとお父さんを捉えるくらいの角度まで振り向いてそう言った。
父さんが頷きで反応してくれたのも、何とか目の端で確認した。
荷物を持ち直し、態勢を整えてから、待っている車の迷惑にならないように、とやや小走りで横断する。
だが、ここで事件が起きた。
対岸の歩道まであと数歩、と言った場所に足を置いた時だった。
文字にしづらい、けたたましい音のクラクションが、私の耳に突き刺さった。
それは、私が気付く前も後も、ずっと鳴り響き、
まるでその場に生息している生物が、私に対して威嚇している鳴き声のような、そんな威圧感すらあった。
そして、その鳴き声の主は、
大きな箱を持つ私の、
まだ柔な脇腹に向かって、
突進して来た。
──危ないっ──
父さんはもちろん、その光景を目の当たりにした人全てがコンマ数秒前に放ったその声は、
今ようやく、私の耳に潜入してきた。
私が、こんな箱など持っていなければ、
回避行動もとれたはず。
しかしそれを出来ない私は、
未だ止まらない猛牛の動くがままに、
押され、
突き出され、
吹き飛ばされ、
地面に打ち付けられ、
放置された。
そして私はやっと理解した。
今、私がされたこと。
私の身に起こったこと。
それは、
『轢かれる』
ということであるのだ、と──。
ああ、全身が痛い。
けれど、幸か不幸か、意識はある。
視界に映っているものも、識別できる。
──あれ……?
目の前が……紅く……──。
一目散に駆け寄って来てくれた、猛牛の運転手も、道路に散乱した荷物も、皆、
美しいと思えるくらいに、
紅く、
紅く、
染まっていく。
それが何なのか、私は、徐々に機能しなくなっていく僅かな感覚を頼りにして確かめようとした。
皮膚に伝わる、生温かさ。
鼻に伝わる、生臭さ。
開いたままの口に入ってくる液体から伝わる、鉄みたいな味。
それらを総括し、私の思考が、緊急事態の中、まとめた結果、それは、
私の『血』だった。
冷静に考えれば、何も不思議ではない。
私は『轢かれた』のだから。
それだけ重傷だったと言うだけだ。
けれど私は冷静じゃなかった。
そんな量の血など、見たことも、触ったことも、匂ったことも、味わったこともなかったから。
だけれど私は、身体を動かせなかった。
少なくとも自力のみではビクともしない。
その身体を、持ち上げてくれた人がいた。
父さんだ。
「大丈夫か!?希良梨!」
左頬を地に伏せ、転がっていた私を、彼は抱えてくれた。
「……うん、大丈夫」
私は答えた。同時に安堵した。
よかった、話せる。
気がつくと、あの運転手含め、その場にいた人間、近くにあった店の人間など、多くの人々が、私たちを取り囲むように集まって来ていた。
お父さんに似た表情を浮かべる婦人方や、
流れる私の血を嫌がりながらも、その凄惨な画をしかと眼に焼き付けんとしている若い大学生、
そして、通報してくれているのかこんな場面を見たと誰かに自慢しているのか知らないが、“腕取付型携帯電話”で誰かに電話している若手サラリーマンもいた。
そのサラリーマンを見て、私は悪寒を憶えた。
それまで私は、“痛み”、ただその感情(或いは感覚)に支配されていた。が、彼を見て、
まるで覆い被さられたかのように、一瞬で、“恐怖”と“焦燥”に駆られた。
これだけの事故が起きたと言うことは、遅かれ早かれ、警察が来る。
警察が来て、私の顔を見る。
口に血が入り込んで来ていると言うことは、私の口元は今、マスクにカバーされていないだろう。
そんな私の顔を見て、何かに気づく。
この顔、見覚えがある、と──。
それが、私の“恐怖”と“焦燥”の根源だ。
私が“恐怖”した未来は、意外とすぐそこにあって、
私の見受ける限り、何人かが、その既視感を憶えていたようだった。
私のナカの“恐怖”と“焦燥”の天秤が、
“焦燥”の方に傾いた。
その大きくなった“焦燥”が、テコでも動かないのではと思うくらい重たかった私の上半身を突き上げた。
「父さん、早く行かなきゃ……!」
私の身を案ずる周囲の反応など気にならなかった。私はただ、父さんの瞳だけを見ていた。
父さんにも、私の思考は通じたようで、彼も、
「……ああ、そうしよう」
と、低い声で、周囲に聞こえぬように言った。
「脚は動くか……?走れそうにはないか……」
彼が見るので、私も見てみる。
そこまで意識が届かなかったから今まで知らなかったが、血がドクドクと流れている。それを見た瞬間、即ち脳が、
『脚に怪我を負っている』
と言う事実を認めた瞬間、そこに痛みが宿った。
けれど、何とか走るくらいはできそうだったので、私は答えた。
「……ううん、たぶん大丈夫。きっと走れ──」
キャァァァァァァァ!!!!!!!!
遮る、なんてものではない。
その場から、人間以外の全てを取り消さんとばかりの、音であって音でないような叫びが、響いた。
さっきのクラクションの方が、まだマシだった。
叫んだのは、私のそばに居た、1人のOLだった。荒立ったからなのか、髪は乱れ、バケモノでも見るような目で私を見ていた。
「こっ、こ、こ、この娘……!!
……ほ、ほ、ほ、骨が……!!!」
──え……?──
──……ほ、ホネ……?──
骨、その言葉の意味を、一瞬、理解も出来なかった。
だけれどそれを把握した途端、更なる恐怖を憶えた。
それと同時、私は、一番近くに建っていた店の、ショウウインドウに映った、自身の顔を見た。
戦慄。
何を見て、OLは叫んだのか。
その答えを知り、私は戦慄した。
左側の、前頭部。ちょうど左眉の上辺りが、たぶんアスファルト製の地面で削れ、皮膚が破れ、それが顔を覗かせていた。
私の、
“堅構骨”が。
露になったそれは、車から上がる白煙の間から差す陽射しに反射し、銀色の光を放っており、それはまさしく、金属と呼ぶ他なかった。
──嗚呼、私の骨って、こんななんだ……──
と感心してしまっていた私。
しかしハッと我に帰り、コトの重さを改めて知り、再び焦った。
その耳に、確かに飛び込んできたのは、
誰かは知らないけれど、
誰かが叫んだ、
その一言だった。
「コイツ、“人造人間”だ──!」