↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“人造人間”の迷惑  作者: 彩葉 軀
第5部
67/69

第65章 聖神

「──これはオレも予想だにしなかった事態だ……。”武戦機(ウォリアー)”の機能が、”人造人間(ヒューマノイド)”の生存本能を強め、”全創機(ジェネラル)”の指揮機能も加わることで、自然治癒力が強化されている……。素晴らしい……実に素晴らしい……!」


 突然現れたその黒のローブ男は、何やら一人で感動しているようだった。

 私──愛翠(アイカワ) 杏紅(キョウカ)と、私の眼前に立ち、今まさに決着をつけようとしていた女──夜川(ヨルカワ) 涼美(スズミ)は、思いがけなかったその事態に呆気を取られ、図らずも一時休戦状態になっていた。


「それにお前……!その精神力と、疲労困憊(ひろうこんぱい)だというのに、落ちるどころか膨れ上がる一方……!『勇戦状態(ブレイヴモード)』で発揮できるもの以上の力だ……実に面白い……!」


 興奮気味の男の声を聞いて、私は気付いた。

 彼の声に、聞き覚えがあることに──。


「……アナタ……まさか、」


 私はその名前を訊(たず)ねながら、その答えが『イエス』でないことを祈っていた。



「『A』…………?」



 頭まで黒いローブを被っている男の正体を判断する材料が声しかない中で、それでも私は確信を持ってそう訊ねた。

 確信しながら、嘘だと、違うと言って欲しかったが──。


「ククク……久しぶりだな、愛翠(アイカワ) 杏紅(キョウカ)、いや……

 ”神童機(オリジネーター)”」


 ──現実は、非情だった。


「まさかこの島で逢うことになるとは考えられなかったが、まあいい……。今度こそお前を、我が物にする!」


『A』は高らかにそう言った。

 私はただ、激しく騒ぐ胸に、不吉な予感を抱くしかなかった。


「何の話をしているのか…………知らないけど……!」


 そこに割って入ってきたのは、他でもない、涼美だった。


「ワタシの……邪魔するって言うんなら……!第三者の……アンタでも…………殺すよ……!」


 本気の眼だった。

 彼女の言葉は決して、虚勢や威嚇のために生まれたものではない。彼女が真に考えていること、そのものだ。

 つまり彼女は、私も『A』も、殺せると考えている。彼女の眼差しは、それを物語っていた。


「おーっと、待て待て。何か勘違いをしているようだが……別にオレはお前に危害を加える気は無い、夜川(ヨルカワ) 涼美(スズミ)。用があるのはこの女だけだ。それが済んだらお前は逃がしてやるし、何なら治療を施してやっても良い」


『A』は、互いに少し距離を置いて立つ私たちの間に、まるで仲裁人のようにして立った。


「それに現実を突きつけるとすれば……果たして今のお前に、オレが倒せるのかと言うことだ。お前は『SHAT(シャット)』訓練学校を首席で卒業したらしいが……オレには関係ない。

 今のお前は、自らの意志による『勇戦状態(ブレイヴモード)』発動もままならない。

 ましてや人類──もとい”人造人間(ヒューマノイド)”の有する最大の武器とも言える手が使い物にならない」


 そう語りながら、『A』は私の方に歩みを進めてくる。


「それに加えて」


 そうして彼は、私の目の前で止まると振り返ってこう言った。



「オレはコ(・)イ(・)ツ(・)と(・)同(・)じ(・)能(・)力(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)」



「なっ…………!?」


 その言葉に驚いたのは、私だけだった。というより、涼美は驚いている暇などない、そんな状態だった。

 私と同じ能力を持っている、その言葉の持つ意味は、

 彼も、何らかの行程を経て、”神童機(オリジネーター)”になったと言うことである。


「つまりお前が戦うと言うのなら、この女2人を相手にして戦わなければならないということだ。今でさえ全く歯が立たないというのに、2人相手に勝てるはずなどなかろう」


「うるさい……!」


 先刻、私を威圧していたのと同じ、鋭い眼光で『A』を睨みながら、低い声でそう返す涼美。


「お前に勝てるかどうか…………決められる筋合いはない……!」


 その声が聞こえた次の瞬間、彼女の姿は消えた。

 そして次の刹那、


「うらぁっ!」


 涼美の渾身の蹴りが、『A』の顔面と思しき部位に突き刺さった。

 負傷しているにもかかわらず、ここに来て最高の威力と思われる攻撃。もはや意地と言うべきか。

 これにはさすがに『A』も無事では居られないだろう。そう考えた矢先だった。


「誠に非の打ち所がない攻撃だな……誇りに思って良い」


『A』の声は、余裕綽々だった。


「だが悪いな。オレに物理攻撃は通(・)用(・)し(・)な(・)い(・)。いや……通用はしても、オレに傷跡(ダメージ)は残らない」


『A』の言葉の意味を、私は瞬時に把握した。そして戦(おのの)いた。そんなことがあっていいのかと、現実を認めたくなくなった。


「気付いたようだが……”神童機(オリジネーター)”よ、つまりはそういうことだ」


『A』には私の考えもお見通しだった。


「だがだとしたらお前は勘違いしていたことになるな……”自分が最強だ”と。オレから得た力のせいで。

 しかしお前は飽くまでも”神童(オリジン)”だ。所詮は”神”の”童(こ)に過ぎないのだよ」


「なら……あなたが言った“私と同じ能力”って──!」


「ああ、そうだとも。オレの能力がお前と同じなんじゃない……お(・)前(・)が(・)オ(・)レ(・)と(・)同(・)じ(・)なんだよ。お前はオレの能力を──

 ”聖神機(ゴッド)”の能力(チカラ)を与えられただけに過ぎないんだよ!!」



「”聖神機(ゴッド)”……!」


「クッ……アハハハ……!」


 驚嘆している私の前で、涼美が笑った。


「何がおかしい……?」


『A』が訝(いぶか)しげな表情で訊(たず)ねる。


「おかしいじゃない……?”天獄(ヘヴン)”と喩(たと)えられるこの島に、

 ”神童(オリジン)”……”聖神(ゴッド)”……それに”天獄之使(エンジェル)”が会しているのよ……?それも皮肉よね……”聖神(アンタ)”の使いのはずの”天獄之使(アタシ)”が…………アンタと戦って追い詰められている…………」


 彼女の笑いは止まらなかった。

 だが、この場に不釣り合いな高笑いを見ても、『A』は全く動じていない。


「ククク……確かにな。だがそれなら……お前たちはオレに従うべきではないのか」


「従って……何になるって言うのよ」


 私は恐れを隠しながらそう問うた。

 すると『A』は、決まってるじゃないか、と笑った。


「人間を駆逐して、オレたち”人造人間(ヒューマノイド)”だけの世界を創ることができるんだよ」


 言っていることが当然だというような態度でそう答えた『A』。

 それに返したのは、またもや涼美だった。


「……何を言い出すかと思えば…………冗談言うのも……大概にしなさいよ…………!神様……」


 涼美は『A』の言葉を鼻で笑った。


「アンタも……判ってるんでしょう、神様…………?ワタシは人間のいない世の中なんか求めてない……あるべきは、人間と共存する世界。……アンタの願う世界とは違う」


「そんなことは所詮、綺麗事だ。いつの世も、強者と弱者の共存なんて状態は夢幻で終わり、実現には遠く及ばない。

 だから強者を無理矢理引き摺り下ろすしか、弱者が自由を勝ち取る道は無い。強者が自由を分け与えてくれるなんて生温(なまぬる)いことは有り得ないんだ」


『A』はつらつらと説いた後、私に歩み寄って、その肩に手を置いて、


「そうだよな?」


 と同意を求めた。

 その次に私がした行為に、私自身が最も狼狽(うろた)えた。



「……うん」



 頷いた。

 同意の言葉と共に、私の首が、縦に揺れたのだ。

 言うまでもなく、私は『A』に同意するつもりなど毛頭ない。寧ろ頷くなら、涼美の言葉にむけてそうする。

 だが結果、私は頷いた。

 いや、私というより、私の身体が自動的に頷いていた。


「……へぇ?……随分意見が変わるのね……」


 これにはいよいよ涼美も驚きを隠せず、面食らった表情でそう言った。


「オレは……もう準備を済ませてきた」


「準備……?」


 涼美が首を傾げた。

 その態度に呆れるように、だから、と『A』は言った。


「新世界創造の準備に決まっているだろう」


「だぁかぁらぁ……!」


 十分すぎるほどの会話時間のお陰で回復しきっていた涼美が、再び攻撃を仕掛ける。


「面白くもない冗談言うの…………やめろって言ってんでしょう!!」


 敵わないと、彼女も判っているはずだ。なのに、それを思わせない全力の突撃。

 ──無駄なのに──。


「その不屈の精神……喪(うしな)うのは実に惜しい」


 勇ましく吠えながら突進してくる涼美を前にして、突然そんなことを言い始めた。

 そして、涼美が繰り出してきた脚を、案の定、『A』はいとも容易に受け止めた。


「その力……是非ともオレに貸して欲しいのだが…………?」


「黙れ…………!」


 笑みを浮かべながら答えたその言葉が、涼美の明暗を分けた。


「…………どうしても、いけないというのだな……。ならば仕方ない。


 杏紅」


『A』の暗黙の殺害命令。今度こそ、従うまいと必死になった。

 が、全く無駄であった。


「…………はい」


 私の口は勝手に、『A』に服従していた。

 そして、私の手は涼美の身体に向かって伸び、

 彼女の左胸から、”動力源(エネルギーメイカー)”を抉(えぐ)り取った。


「ガ…………ッ…………!」


 涼美の眼から、生気の満ちた色が消えていく。

 私はその様を目前にしながら、どうしようもないまま見送るだけ。

 身体は意のままに動かないのに、手には血のべっとりとした感覚があり、嗅覚にはその生臭さが激しく訴えかけてくる。

 生き地獄、というものを、私は味わわされているのだと実感した。


「残念だよ……お前は生かしておくに相応(ふさわ)しい逸材だったというのに」


 台本に書かれている台詞を読み上げたような、心のこもっていない、嘆きの言葉。

 癪(しゃく)に障ってならないのに、それを全く表に出すことができない。


「しかしそのままでは……お前はオレの創り上げる世界について行くことはできまい。だからせめて……この”天獄(ヘヴン)”で、お前を死なせてやるのが、神の情けだ」


 情けなどそこには無い。声を大にしてそう訴えてやりたいけれど、口が動かない。

 そのやるせなさを私が抱いている一方で、涼美の身体──屍(しかばね)は、燃え尽きたと言わんばかりに倒れていく。その姿が、楽そうにも見えて、ますます私は切なくなった──。



「…………さあ、最後の邪魔者も消えた」


 涼美の死を見送った『A』は、丁寧に私の方に向き直った。


「これで準備は整った…………しかし、オレたちだけでは心許ない、そうだろ?」


 彼はまるで、私が従っているのが当然のように────










 ────何を言っている…………それが当然なのではないか。

『A』は”聖神(ゴッド)”。従って然るべき。


「だから仲間を呼んでおいたのだ…………出てこい、お前たち」



「もう……よろしいのですか……?『ADAM(アダム)』」


『A』の呼びかけに、物陰から現れた一人の女が答える。

 穏やかな佇(たたず)まいをしている彼女は、『A』に誘われてこちらに来ると、私の方を見てにっこりと微笑んだ。


「他のみんなも。もう隠れる必要はないぞ」


 その『A』の声に反応した残りの者たちが、続々と集まってくる。

 一人は長身の男。痩せているが、決して不健康には見えない。少し頼りない。

 もう一人、頼りなさげな少女がいる。前髪が長くて顔がよく見えないが、それ以外の部位からも察することができるくらい、肌色が悪い。

 それとは対照的に、血色のいい男。だが彼はとても厳格そうで、容易には近寄れない、と言ったところか。


「彼ら四人が、オレたちを助けてくれる……が、これだけではあまりに足りない。新世界に住まう民が必要だ」


「その”民”を、この”天獄(ヘヴン)”から救い出すのです。それが、新世界創造への第一歩です、『EVE(イヴ)』」


『EVE(イヴ)』。それが私の新たな名か。

 私がそれを覚えていると、和やかな淑女が、私に手を差し出してきた。


「さあ、行きましょう。全”人造人間(ヒューマノイド)”の、救済に──」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。