第37章 依怙
「──どうぞ座りたまえ」
「は、はい……」
近未来的かつ科学的な内装の研究所の中に、いかにもアンティークな雰囲気の部屋があったなんて。
そして今、私──愛翠 杏紅は、思いがけないVIP待遇を受けている。
目の前で私に歓迎の意を示して下さっているのは、白衣を着ている、白髪とほうれい線が目立つ、はっきり言ってヨボヨボの男性研究員だ。
非物体カードに記されている名前に驚いて、私はここまでついてきた。
その名前は、初葉 命琴。
先刻、散々聞かされた、“人造人間”を発明した男である。
そして、私は彼に言われるがままに、アンティーク感の漂う椅子に座らされた次の刹那、第二波に襲われる。
「……君……“人造人間”……だね?」
「なっ……!?」
私の電脳はこの瞬間、2つの答えの解明に向かって働いた。
1つ、何故この初葉 命琴という男は、私の正体を見破ったのか。
かつて、私の手首を握りしめただけで、その得体を認識した男は一人だけいた。それに今では、私にだってその技術はある。
だが流石に、目にしただけでは判別不可能だろう。先刻見たあの“自動人形”と大差ないのであれば話は別だが、私はそこから遠くかけ離れた、最終の機能更新を為された身体を持っている。より人間に近い見た目はしているはずだ。
或いは……私たち一般人では知り得ない、製造者だからこそ判る別の決定的な違いがあるというのか。
そして2つ。
私がこの次に発する言葉の正解は何なのか。
この場には誰もいない。だがこの会話を遠くで聴いている誰かはいるかもしれないし、少なくとも私がそれを知る由はない。
その“誰か”が、単にこの老獪を見守る為のセキュリティ会社やその類の人間ならまだ良いが、これが私の敵である存在かもしれない以上、迂闊な発言は慎まなければならない。
それを否定出来ない理由は、彼が、或いはこのフロンティアという会社が、政府に“人造人間”を提供したという事実があるからだ。
そのパイプが絶たれたという確証もない。この会社自体が一方的に絶っていたとしても、政府は未だにその爪痕を何処かに遺しているかもしれない。
仮定が仮定を呼ぶ、疑心暗鬼の連鎖。
その末に私が、もとい私の思考が導き出した、この場を切り抜ける言葉はこうだった。
「……“人造人間”はあくまで研究対象です……研究熱心な結果が、まさか身体に出ていますか?」
少しばかりの冗句を混じえつつ、嘘とも真ともとれる微妙なラインを攻めたつもりだ。
それに、『身体に出ている』という一言もミソだ。
仮に初葉 命琴だけが判る人間と“人造人間”との相違点があったとして、それを知るための手段と言える。
しかし、彼はその裏に隠された私の脳内会議の内容を全て見透かした。
「驚かせてすまない。そして安心したまえ。この部屋の会話は一切外に漏れる心配は無い」
と。
だがそんな言葉だけで「はいそうですか」と納得する私でもない。
こんな老人を相手に疑いを重ねるという行為には罪悪感も感じない訳では無いが、こんな老人だからこそ、私たち若者では到底思いつかない程の嘘をついているという可能性もある。
疑い続けることに間違いはないはずだ。
「……と言っても、信じることなどないだろうなあ……ワシならばそんなことは難しい。
……だが仮に、ワシの今から話すことが政府の要人の耳に入りでもすれば、私の首は直ぐに刎ねられるだろう。ワシはそんな危険性は冒さない性分だ」
そう話す命琴の目は、偽言や虚言を話すつもりは毛頭ない、ということを物語っているようだった。仮にこれが演技だとしたらお見事であるくらい。
「ワシはこれから君に向かって、ワシが知っている、この国にあったことを全てありのままに話す。だがワシの首は刎ねられんだろう。この会話は誰にも聞かれていないのだから」
「…………判りました」
私は渋々承諾した。
「けど……あなたはその椅子に座ったまま話して下さい。妙な素振りを見せたら、私は逃げますから」
私が、己の置かれている立場も恐れず出した条件を、彼は、
「喜んで承諾しよう」
と、受け入れた。
そして私が、何時しか何処かで習ったように、両手を膝の上に置き、ただじっと、眼前で話そうとする男を見つめた。
それを他所に、命琴は語り始めた。
「……ワシが“自動人形”の原理を閃いたのは高校生の時。昔から機械が好きだった。それも最新の機器だけではない。今から300年以上前に造られた絡繰りも、食い入るように見ている青年だったよ──」
──それ故か、ワシは小学校で孤立した。
悪意による孤立ではない。皆、ワシについていけない、そう言っていた。
ワシは社会情勢など抜きにして、ただ己の欲を満たす為だけに“自動人形”を造り出した。
『友人として接しても不自然でない、自分に付いてこられる機械人間を造る』という欲をな。
その欲に直向きになり、その結果、私は高校生にして、後に偉業と呼ばれることを成した。
ワシは唯一無二の友人を手に入れた。
だがはっきり言って、まだ物足りなかった。
何より人間味がない。
そして気付いたのだ。ワシが欲しかったのは、自分の知識についてこられる都合の良い友人、ではない。
共に学び、時に諍い、そして絆を育む、そんな友人が欲しかったのだ。
そんな悩みを持つ人間は、きっと数知れない程いるだろう。
その人々を救うこと、これこそが、“自動人形”を開発できた、ワシに与えられた使命なのだと実感した。
ワシは殆ど不眠不休で発明を続けた。
高校を卒業すると、親の反対を押し切り大学にも行かずに、家を出て、『研究所』と称した自室にこもりきった。
暇つぶし程度に造った発明品を売れば生計は立てられた。
世の中では万博だとか次のオリンピックは何処に決まったとかで騒いでいたが、ワシは見向きもせずに、もう少しだった作業を続けた。
そして造りあげた。
共に成長することの出来る、友人のような人型機械、“人造人間”を。
無論、まだまだ初期段階だったそいつは、会話機能もままならない、まだ他人に見せるには遠く及ばない状態だった。
しかしワシはそいつを心から愛した。
名は“イザナギ”。
当時ワシは日本神話に没頭していたのだ。
だから神の名を借り、我が友人であり子のような存在に与えるということをしたのだ。
ワシは彼と共にいろんなことを覚えた。いろんなことを学んだ。いろんなことを教え育てた。
そして彼は、共に成長する、人間同然のサイボーグとなったのだ。
しかし、ワシはまだ得心しなかった。
何かが足りない。
これでも十分ではあるが、ワシが求めていたものに届かせるには、もう少し手を伸ばす必要がある。
それが何なのか、ワシは三日三晩に渡って模索した。
しかし、“独り”では何も出て来なかった。
そう、“独り”では。
ワシには、年の離れた姉がいたんだ。
その姉の娘……つまり姪を見た時、ふと、ワシは気づいた。気付かされた。
“成長”だ。
最初から決まった身体をしていては、まだ機械としか言いようがない。
血の通う、表情豊かで、機体によって様々な想いを持つ“人造人間”にするには、“成長”が必要不可欠だったのだ、と。
そしてワシは同時に、独りであるよりも、他人と共に学び歩むこと、これこそ肝要だということも知った。
だからワシは、長年にかけて、世界開拓の最前線に立ち続ける研究チームになるよう、という願いも込めた名を持つこの、
『フロンティア』を立ち上げた。
それももう、80年も前のことか──。
「ちょっと待ってください」
命琴の話の途中、私は彼の言葉の中にあったとてつもなく気になることを問うために、彼の話を遮った。
「……今、いくつなんですか」
冷静に考えてみればおかしい。
80年前に“人造人間”を開発、そして世界に発表した時には、もう彼は30半ば。つまり単純計算で、彼は……110歳……!?
「ああ、そうだな。実は……」
──コンコン。
命琴が話そうとした瞬間、私の背後にあったドアからノック音が。彼はこの数秒の間に2度、話を遮られた。
「失礼して大丈夫か」
そのドアの向こうから、男の低い声がした。
何処と無く、眼の前の命琴に似ているような気もするが……。
「すまない、少し待ってくれ」
大きな声でドアの向こうに向かってそう言った命琴。その直後、私に小声で、
「君は新入研究員と言うことにしてくれ」
と言われたので、戸惑いつつも頷いた。
「大丈夫だ、口を閉じてくれているだけでいい」
と私に耳打ちすると、入りたまえ、と彼は命じた。
「取り込み中だったか。タイミングが悪かったようだな」
ドアを開いて入って来るなり、男は言った。濃紺のスーツを身に纏った、肩幅の広いその男は、私に一瞬目を配った後、すぐに命琴にそう言った。
「全くだ。お前はいつも、狙ったようにワシの話を邪魔する」
「そう言わないでくれ、少し伝言を伝えに来ただけだよ」
命琴に呆れるように言われた男は、その首に非物体カードをぶらさげていない。
よって正体は掴めないが、命琴にこの物言いだ、フロンティアのお偉いさんだろう。
彼らは、素人の私には到底理解不能な文言ばかり話すと、唐突にそれを終え、
「ではな」
と言った簡潔な挨拶を済ませ、男が去っていった。
「……息子だよ」
ドアが閉じられた途端、命琴はそう告げた。
「初葉 海邦。生物学と医学のスペシャリストだと聞いている。……アイツはワシと違って、あらゆる生物の不老不死を夢見ているようだ。
……ワシがここまで生き延びているのも、あいつのお陰だ」
どんな生活を送れば、そんな夢を抱き、それを現実にすることが出来るようになるのだろう。
「そしてあいつは……君に世話になっている美雪の父だよ」
「へえー……」
……あれ?
私、美雪さんと友だちだって、いつ言った……?
「話が逸れたな。話題を元に戻そう」
私の疑問は、独断的に会話を元に戻した命琴の所為で無に帰した──。
──研究員の一人が、『特殊な化学反応によって大きさを変えることの出来る金属がある』と教えてくれたのは、フロンティア発足後数ヶ月の事だった。
ワシらは大金をはたいてそれを買い、すぐにそれを使ってサイボーグを造った。
……上手くいった。ワシらは遂に、“成長”を遂げるサイボーグを造り出したのだ。
その時ワシは、何かいけない事をした、罪悪感のようなものに苛まれた。
禁忌を侵したような気がしてならなかった。
昔、錬金術なるものが何故禁じられたのか、不意に解ったような感覚になった。
だが、そんなものなどつゆほども感じ得なかった他の研究員たちの歓喜の言葉に、その感覚は拭いさられた。
誰かが言った。
『これを世界のために生かそう』と。
今思えば、そいつは、国からいち早く送られた刺客だったのかも知れない。
そんな疑いなど持たず、ただ純粋に、この“人造人間”こそ、徐々に絶滅へと向かうこの日本という国にもたらされた救世主だと思い発言した、そう思いたいものだが。
しかしそう思いたくなってしまうほど、機の良い時だったのだ。
政府の人間が、秘密裏にフロンティアを訪れたのは。
しかも彼等は、“人造人間”についての情報を少し把握していたのだ。誰かが情報を漏洩したとしか思えぬ。
彼等の話を聞くうちに、ワシは彼等の話を拒みたくなった。
理由はふたつだ──。
「──解るかね?」
突然、命琴は私に問うた。
あまりに唐突だったが、私は答えた。
「……ひとつは、軍事利用だと」
「その通りだ」
命琴は頷く。
「……金属の身体を持つ“人造人間”が人間よりも戦争に向いているのは明らかだ。設定操作次第では、戦場で敵無しになるかも知れない潜在力も兼ね備えている。
……そのような事を彼等は口にした。ワシは嫌悪感を抱かざるを得なかった」
命琴はより強く眉を顰めた。
「しかしもう一つ、どうしても承諾しかねる趣旨のことを、彼等は話の中に仄めかしていた……何だか解るかね」
そう問われた時、私の脳裏をある言葉が過ぎった。
その言葉を、私は呟くようにして答えた。
「……差別」
それを聞くと、彼は大きく頷いた──。
──確か2度目の東京オリンピックが行われた年にワシは産まれた。その頃、日本、ひいては世界には多くの差別が蔓延っていた。
人種、性別、宗教、障害、部落……その他にも数え切れぬ程のそれが世界を横行していたのだよ。
だがそれもいつしか和解が進み、世界から“差別”という言葉はひっそりと姿を消そうとしていた。
世界が待ち望んだ、平和な世界の実現。今まで虐げられてきた人々たちにとっては願ってやまない瞬間であった。
だが却って……それは、裕福な階層の者共にとっては不愉快な状態を生むのだ。
虐げることも虐げられることもなかった存在、まさに裕福層。
労働者を雇い彼らを養う身や、国の代表として政を行う身に置かれた者だよ。
彼等は、多くの労働者の生む金とモノで生きている。言い換えれば、労働者の労働抜きでは生きられぬということだ。当たり前だがな。
そのぶん彼らは、労働者にとって必要なものが何か知っている。
それは『優越感』。
社会には、必要な階層がある。会社には社長、その下に部長、更にその下に課長とあるように。
その中で最下位に属する者たちは、この世の底辺なのか?
違う。
更に下が居る。
そう思わせなければ、労働者たちは本領を発揮しない。
富裕層はそう考えたのだ。
だが世の中の差別は徐々に解決されつつある。
ならば差別を作ればいい。
とな。
信じられんだろうが、ワシはこれを政府の人間が話しているのを聞いてしまった。
そして、その差別の材料に、“人造人間”はうってつけだった、という訳だ。
ワシはその事を理由に、政府の提案を断り続けた。
が、政府の思惑を知らない我が同僚達は、達者な口にうまく丸め込まれ、
“人造人間”は、彼らの手中に渡ったのだよ──。
「──だがその半世紀後、彼等は“人造人間”を回収した。理由は……いうまでもないね?」
命琴の問いに、私は首を縦に降った。
「ならば話が早い……考えてみてくれ。不自然だとは思わないか?
何故、半世紀以上も時が経ってから、電脳の脆弱性はともかく、人間を脅かす毒やなんてものが見つかるのか。……しかもフロンティアの人間ではない、一般研究員の論文によって見つかるなどおかしくはないか?
フロンティアでは幾度となく機能更新を重ねている。その中で見つかるのならばまだしも、だ」
確かにそうだ。これが、ネットの情報を鵜呑みにする現代の若者のイケナイ所だ。
「……あれは皆ウソだ」
「……ウソ……?」
「そう……22年前に、城石 究という男の持った些細な嫉妬心によって生まれた、虚偽の情報なのだよ」
「……何故そんなことがわかるのです?」
「……あの男は、ワシにとっての無二の親友だからだよ」
私は言葉を失った。もし彼の言うことが真実ならば、何と奇妙な出来事なのだろう、と。
“人造人間”を生み出した男と、
失わせた男が、
親友だったなんて。
「あのふざけた嘘八百の論文が世間を賑わせている最中、ワシは究を問い質しに言った。その時彼は良心の呵責を感じたのか、『親友に蜜事は御法度だな』と、全てを語ったのだ──」
──“人造人間”を国に放った本来の目的を達成させる為に、その頃政府は動き始めていた。
軍事利用だ。
その口実を、自分は作らされたのだ、究のやつはこう言った。
一般にはあまり知られていないが、科学分野の研究を行う業界の当時のトップを走っていたのはアイツだった。そんな男が言うことには、科学に疎い一般庶民は勿論、科学界の人間でさえねじ伏せられる説得力がある。
その上彼は、話をされた頃、ノーベル賞の候補に挙がる程の大発明をしたばかりだった。
それにはとんでもなく莫大な研究資金を費やしていた。
そこに政府はつけこんだ。
究の、“研究援助金”という言葉に対する脆弱性に。
政府はここぞとばかりに、究が大発明に費やした資金を補って余りある程の金額を呈示した。
ワシと同じく研究熱心な彼は、ワシの“人造人間”の発明した頃に抱いていた嫉妬心の再燃も相俟って、
政府の出した悪魔の契約に、サインした──。
「──ワシはこれを聞いて失望した。
しかし、誰も、何者も責め立てられる気にはなれなかった。
確かに政府のやり方は、耳を疑いたくなるほど汚いものかも知れん。
世界という単位で見れば、かつて無いほどの激動の時代を迎えている今、そう言った強引な方法を取らねばならぬくらい、日本という国も苦渋の選択を迫られているのかもしれんからな」
認めたくないが、彼の言う通りだ。
世界では今、様々な問題が各地で渦巻いている。
我が国日本とは反比例するように、発展途上国を中心に人口爆発が起き、それによる土地難や食糧難も続発。
更にそれは、国家間、或いは民間の戦争、紛争を引き起こし、それによる難民を保護するという面で、先進国も、その渦の中に引き込まれる。
そうしてそれらの国々も、食糧難などのプレッシャーに気圧されるように、軍事方面の準備を慌てて整え始めていると聞く。
加速の一途を辿る負の禍渦に、世界中が押しやられる中、日本だけのびのびと出来るわけもなく、法の手の届かぬ所で、悪手を使ってでも国民を守らねばならないというのは致し方ないことなのかもしれない。
「……こんな世の中だからこそワシは、再び“人造人間”の安全性を再確認させ、共存する未来が理想のヴィジョンだと思っている。
幸い世の中はまだ、電気のエネルギー難には苦しめられていないようだから、“人造人間”は活動して行ける。
その“人造人間”が中心になって、食糧生産や土地改革を行っていけば、明るい未来はきっと訪れるはずだとワシは思うのだ」
そう語る命琴の目は、それまでになく、希望に満ちていた。老いた男のものとは思えぬ程、子どものそれのように輝いていた。
「……どうやら、君も賛同してくれているようだね」
「えっ……?」
確かに私は賛成だが……私、そんなこと口にした?
はっ……危うく忘れる所だった。
彼の一言目……。
「あの……どうして、私が“人造人間”だと?」
この際、率直に訊いてやる。判りきっていることを下手に隠したところで無意味だし。
今わたしの中にあるのは不安や敵意ではない。
単なる好奇心のみだ。
「……聞こえのいい夢を語ったばかりでこんな話をしたくはないが……。
ワシらはまだ、“人造人間”を新たに造っている」
それを聞いても、私の口からは何も出なかった。
私は見たのだから。
一人の男性研究員の胸に下げられた非物体カードに、
『HUMANOID』の文字があるのを。
それは、“人造人間”に関する何かをまだ行っているということだから、別段驚きにもならない。
だがそれと私の質問、何の関係があるのだろうか……まさかはぐらかそうとしている?
いや、早とちりはいけない。黙って聞こう。
「……百聞は一見に如かずだ。……付いてきたまえ」
彼はそう言うと、小刻みに震えながら立ち上がり、すぐそばにあった木製の杖を手にした。
そして、ドアに向かうのかと思いきや、
彼は逆に、何も無いはずの本棚に足を向けた。
何処へ行く気なのか問おうとした次の瞬間、
その本棚はさらに向こうに開き、その先には、
真白の壁に囲まれた部屋の中に、無数の複雑な機械があり、そして何より、
左右にある、四つのポッドの中に、1人ずつ、人間が入っているという、
いかにも研究室な光景が広がっていた。
「……これが、“未来”だ」
ただ一言、初葉 命琴はそう言った──。




