第22章 疑心
以下数話を読むにあたっての留意点。
・恋愛モノですが、あまり期待しないでください。胸キュンとかドロドロとか、そう言ったものは採用しておりません。
・遊園地が出て来ますが、アトラクションに期待しないで下さい。大したものは出て来ません。
──2115年 12月17日
「あ、雪だ」
研究室の窓の向こうを見ながら、一つ上の先輩──初葉 美雪さんが言った。
「ホントですね」
しんしんと降る雪を見て、私は応える。
見たところ粉雪のようだ。
「雪を見るのなんて何年振りでしょう……」
その美しさに思わず見惚れながら、私は重ねた。声も自然と柔らかくなる。
「私は1年振りだな〜。去年は此処じゃ降らなかったし、ナツカたちと遊ぶのに夢中で実家にも帰んなかったから」
ナツカとは、言わずもがな、美雪さんの友人である。
「そう言えば美雪さんって地元は?」
「んー?ウチは田舎だよ。I県。北国でさ、冬は毎日雪降るから、高校に電車で通ってるって娘は休み連続しちゃうから実質冬休みちょっと長いんだよね。羨しかったなー」
彼女はいつも楽しそうにニコニコして話すが、親友である乾 寧音と話す時と、中高生時代の話をするときは特に愉快そうに話す。
そんな彼女の話し方を見ていると、いつかの雛乃のことを思い出す。
菜那の過去の話を聞いてから、早くも半年近く経つが、まだあの夜のことは鮮明な記憶として残っている。
一つ上の先輩に、かつての同い年の友人を照らし合わせてしまうのは、もはや病的なものなのかもしれない。
「そういえば、“美雪”って名前も、雪に関係あるんですか?」
私は質問を続ける。しかし美雪さんは嫌な顔一つせず答えてくれる。
「んーと……よくは覚えてないけど、確か私が生まれた日、あ、4月の初めなんだけどね、季節外れの大雪が降ってたんだって。
けど、ママが私を産んでくれたその瞬間に、1メートル前も見えないくらい激しく降ってた雪が和らいで、今のこの雪みたいに、優しい感じになったんだって。
それが美しかったから、“美”しい“雪”、ってことで“美雪”にしたんだ、ってパパが言ってた」
なんて素敵な話だこと。心温まる話とはこんな話のことを言うんだ。
「だからなのかは解んないけど、ウチ、昔っからこういう雪を見た時、懐かしい気持ちになるんだよね。今もそう。何て言うか、あの街の他にもうひとつある心の故郷ってやつ?それを懐かしんでる感じ」
「……不思議ですね」
私が合いの手を返すと美雪さんは、そーね、と短く返し、穏やかな雪を眺めた。
その顔を見ると、彼女はこんなケバい恰好をしてるけど、そんな見かけによらないセンチメンタルなところもあるのかもしれない。
今度試してみよう。
「どうしたの?そんなところで2人して」
唐突に声が。
驚いて後ろを振り向いてみると、我らが部長である黒雨 凛が微笑んでいた。
「ぶちょーさんかあ……。ちょっとビックリしたよー。ってか、扉開いたの気づかなかった」
隣で美雪さんが言う。
「オレじゃ期待外れかい?」
気さくに返す黒雨さん。
そんなことないけどさ、と美雪さんも楽しげに返した。
そして、その部長さんの陰から小さな顔を覗かせたのは、うるうる瞳がチャームポイントの寧音さん。
「み、美雪ちゃん……コレ……」
前に出てくればいいものを、恥ずかしがって出てこないまま、黒雨さんの背中越しに、寧音さんは何かを美雪さんに差し出した。
「うわっ、コレ“ネビディア”の『ベリーベリークリーム』じゃん!寧音ってば覚えててくれたんだー!一緒に飲も!」
“ネビディア”とは、ここの大学生に超人気のカフェの店名、“ネビュラディアー”の略である。
聞くところによれば、この大学の卒業生が、20年近く前にキャンパスの目の前という最上な立地に店を設けてからというもの、
その広々とした空間と落ち着いていて且つセンスの効いたインテリアが、オシャレにうるさい学生にウケて、瞬く間にキャンパスのシンボル的存在になり、今や県内に15軒以上の店舗を構えるチェーン店となった。
美雪さんもこの店の虜になった1人で、レポートの課題に追われつつもこの研究室に来る時は、大抵その右手にネビディアのラージサイズのカップがある。
で今、寧音さんが買って来たのは、今月は金銭的にピンチな美雪さんがここ最近ネビディアを通り過ぎる度に飲みたいと言っていた、生クリームの上にイチゴをこれでもかとばかりに載せた、見るからに甘そうな期間限定ドリンクである。
そりゃあれだけ飲みたい飲みたいと言ってたら、嫌でも覚えてしまうだろう。
「わ、私のぶんは無いから……。美雪ちゃんだけ、飲んで」
恥ずかしそうに下を向きながら笑う寧音さんは、女子大生というよりまだ女児に近い感じに見える。
「なんで自分のぶん買って来ないのよー。私1人だと気まずいんだってば」
寧音さんはいつも、仲良しの美雪さんのぶん“だけ”何かを買って来る。
私と美雪さん、それに寧音さんで学生食堂に行ったときでも、寧音さんは席を確保してただ私たちの食事しているのを、お冷やを飲みながら見守るだけ。
貢ぐ心があるのは悪いことではないのだけれど、ここまで徹底してされると、こちらにも罪悪感が芽生えてくるというものだ。
「私は、美雪ちゃんの顔を見てるだけで、嬉しい……から」
「寧音ってば、母親かよ!……ったくもー」
美雪さんは笑いながらつっこんだ。
それにもまた、寧音さんは笑顔で応える。
「楽しそうだなあ」
2人を傍観していた黒雨さんがふいに私に向けて言った。
そうですね、と私が応えると、彼は急に話題を切り替えた。
「ところで、残りの2人はどうしたんだろう。今日は久々のミーティングをするんだが……この時間を過ぎても来ないってことは、まだ講義なのかな」
「判んないです……今日は私も何も聞いてなくて」
こんなことを答えるだけなのに、何故だろう。
胸が……痛い。
悲しみに痛んでいるのではない。
得体の知れない何かが、私の心臓を締め付けている。
「ぶちょーさん、今日ミーティングなの?まあウチ今日は何も予定無いんだけど」
「ああ。今日は年末年始の予定を決めようと思う。……言っておくが、遊びじゃないからな」
「なーんだ、クリスマスとか初詣の話じゃないんだー。まっ、今度も寧音と行くけど。ねーっ」
「うわわ」
寧音さんの肩に手を置く美雪さん。急に来たので、寧音さんはびっくりしていた。
その間も、私は自身の心について疑問を抱いていた。
何故……何故数ヶ月前までは何とも思わない、或いは今でも何てことのない美雪さんと黒雨さんのやり取りなのに、
このやりきれない気持ちは何……?
大事なものを強引に奪われたような気分になる……この気持ちは何なの……?
妙な気分のまま、私はミーティングまでの時間を過ごすのであった──。
「──ねえ杏紅」
「…………」
「杏紅ってば。……おーい、杏紅ぁ〜?」
「んへっ!?な、何!?」
頬をツンツンと突かれ、遠くに飛んで行っていた私の魂は急激な速度で私の身体に帰って来た。
だからあんな、『んへっ』なんて変な声で応えてしまったのである。
「どしたの?最近そんなボーっとしちゃってさ。今日は特に。私、遅れて来ちゃったけど、その時からずーっとそうだったよ?」
「ちょ、ちょっと疲れたの。別に具合悪くないよ」
「そう?」
と言いながら、花理崎 菜那はカップに入ったアイスコーヒーをストローで飲む。
それでも彼女は怪訝そうな顔をするので、目をぱっちり開いてとりあえず元気だということをアピールする。
「……疲れたんじゃないでしょ?」
しかし彼女は見抜いて来た。
「……何があったのか言ってみ?お姉さん聞いてあげるから」
と彼女は言うので、私は心ならずも、今日感じたアレコレを赤裸々に話した。
「……杏紅って、意外と鈍感だったのね。或いはまだ乙女なのかも」
話を聞き終えるなり、彼女はニヤつきながら言った。
「なっ、何よそれ!」
「そんなトコも」
「だから何なのっ!?」
私はただ答えを教えて欲しいからそう言っているだけなのに、彼女はムフフと笑い、なかなか言おうとしない。
私がそっぽを向くと、「ゴメンってば」とそれでも笑いながら謝ってきたので、再び答えを問うた。
すると彼女は、思いもよらなかったことを口にした。
「それ……“コ・イ”、ってやつだよ」
「コイ……?……恋!?」
私は吠えて、立ち上がった。が、私たちの座るベンチの前を行き交う人々の足が止まったのを見て赤面し、すぐに落ち着いた。
「……菜那、それ本気で言ってるの!?からかってるなら許さないよ!」
何故か小声で私は言った。
「本気も何も、それしか考えられないわよ。『黒雨さんを見てる時だけ胸が痛む』、『黒雨さんが誰かと話してるのがあまり気に入らない』……。こんなの、片想い中の人間の心そのものじゃん」
私に合わせて、菜那の声も小さくなる。その顔も、いつになく真剣になっていたので、恐らく彼女は嘘は言っていない。
「……アンタ、『ラブラビ』読んだことないの?読んだことあるなら、有名なワンシーンあるじゃん。卯沙樹が斗蘭に恋しちゃうシーン」
言われて私は、そのシーンを思い出す。
「……『胸が苦しい。まるで心臓を握られてるみたいに』」
「そう。んで卯沙樹は、同じクラスメイトの日和が斗蘭と話してるのを見て嫉妬心を抱くの。……その時の台詞は?」
「……『赤の他人が自分の家の庭に入ってきた時みたいな不快感』……!」
「完璧じゃん」
自分でも褒めたくなるくらい、一言一句見事に全て暗記していた。
そう言えば、小学校の時も、こうして菜那に教わってたっけ……。菜那ったら、『ラブラビ博士』なんて異名が出来るくらい、詳しかったからなあ。
……って、そんなことに感心している場合じゃない。とにかく今判ったのは、
私は今、黒雨さんに、恋している
ということ。
しかし、だとしたら一つ疑問がある。
私は“人造人間”だ。
あまり言いたくはないが、少なくとも私は機械である。
人型の機械に、人に恋をする機能など、備わっているのか──?
〔──備わっているわよ?当たり前じゃない〕
スピーカーの向こうから、何を言うかと思えば、みたいな風に言うのは、私の女性として、そして“人造人間”としての師匠、白鷺 美依莉さんである。
私が使っているのは、一世代前の立体映像通話機能付き電話だが、現実に無い彼女の身体は映らず、代わりに『SOUND ONLY』の文字が投影されている。
「でも、だとしたらややこしくなりませんか?だって、“人造人間”は子供を産めないんじゃ……」
〔それで苦しんで来た“人造人間”も沢山いた。っていうか、私もその1人だし〕
暗い話のはずなのに、美依莉さんの声色は全く沈まない。
〔私たちの世代は“人造人間”との恋愛も認めてたんだけど、親世代は認めなかった。だから恋愛が発覚した時点で強制的に別れさせられることが増えた。
一応、“人造人間”がいる家庭は子供が出来ないから、不妊症や不育症を抱えた夫婦と同じ扱いを受け、“人造人間”の子供を授かることが出来るんだけど、やっぱりみんなそれを避けようとした〕
その話を聞いて、私は思い出した。
そういえば、父さん──川上 頼斗の友人にも、“人造人間”との恋愛を反対され、それが日常生活に支障を来したケースがあったことを聞いた。
言い換えればそれは、“人造人間”にも恋する心があるということを、これ以上ないくらいに示している。
〔何はともあれ、恋が出来るってイイコトよー。日常を生きる活力になる。彼の為ならがんばろってなれるカレシ、作りなさいよ〕
中学、そして高校という、恋愛というものを身を以て学べる時期を、別の生き方で費やした私に対し、美依莉さんは忠告をする。
「で、でも、私、告白する勇気がなくて」
〔告白だなんて、そんな急に話飛ばさなくなっていいわよ〕
笑いを混じらせつつ、彼女は続ける。
〔まずはデートよ、デート!私はその……クロサメさん?を、見たことないから確証はないけど、姫花ちゃんの言うのをまとめれば、かなりの好青年と見たわ。むしろそのお誘いで断られるなら、脈ナシだと思いなさい〕
久々に姫花の名で呼ばれると、なんだかムズムズする。杏紅で呼んでくれと何度言っても、彼女は気に入らないのか、姫花の名前に固執する。
「で、でも何処に行けば……?」
〔今なんて何処でもいいわよ。姫花ちゃん、周りを見てみなさいよ。今の時期は、どこもかしこもクリスマスムード一色よ!1週間後はちょうどクリスマスイヴだわ!〕
確かに、今、私が居るこの部屋に至るまでの道も、キャンドルライトとかミニチュアのツリーとか、冬の夜を彩るクリスマスグッズだらけが並んでいた。
カーテンを開けて夜景を見ても、この街のシンボルとも言えるビッグクリスマスツリーが目立つ。
「だったら尚更解らないです、美依莉さん。初めてだから何処に行くのが正解なのか……」
〔随分乙女さんだったのね、姫花ちゃん〕
「みんな乙女って言いますよね」
〔そんなウブなお嬢様であるあなたを、キューピッドの私が指南してしんぜよう……〕
声だけでも判るくらい、楽しそうな美依莉さんが出してきた提案は──。
「遊園地かあ……なるほどね」
翌朝、その提案を、もう1人の私の先生、花理崎 菜那に確かめてみた。
ちなみに彼女には、美依莉さんのことを高校時代の先輩と伝えてある。
菜那は次のように答えた。
「いいんじゃない?クリスマスだったら彼処がいいでしょ、『ギャラクシー・キングダム』」
「そう、私もそこ考えてたの」
これは正真正銘、真実である。
ギャラクシー・キングダムとは、日本の数ある遊園地の中でも五本の指に入る程の人気を誇る、今年で開園30周年になる遊園地だ。
私たちの住む街2つぶん程の広大な敷地の中には、20世紀初頭のアメリカを再現したエリアや、御伽話を再現したエリア、江戸時代の街の中に、最新テクノロジーを織り込んだアトラクションを含むエリアなどなど、国内外の観光客を魅了するエリアが多数存在。
特にクリスマスの時期は、平日休日関係なく混雑必至。
私も何度か行ったことはあって、最古の記憶は、物心ついた頃に連れて行かれたクリスマスのギャラクシー・キングダムだった。
「じゃあそこでいいでしょ、杏紅」
「……って軽くない?他人事だと思って〜。私ドキドキしてるんだよ?」
むくれる私。
「最初はみんなそうだよ。けど変に身構えた方が男の人も困るってものだから。友だちと行くようなもんだと思って行ってきなよ」
「そう?……うーん」
そう言われても、緊張するものは緊張してしまう。友だちと行く、っていくら言い聞かせても無理だ。
「……ひゃっ!?」
私はまた、変な声で返してしまった。
「何すんのよ!?」
アイスコーヒーの入ったカップを、私の頬に付けてきた菜那に、私は割と本気で怒った。
その中心には、ネビディアのマークが目立つ。
「ゴメンってば。けど、いつまでもウジウジしてたら、折角のチャンスを他の女に奪られちゃうよ?それでも良いの?」
「……ダメ」
「じゃあ頑張りな──」
菜那にそんな言葉で背中を押され、一世一代の決戦──並みの決意を胸に、黒雨さんを誘った。
お誘いは何と成功。しかもその約束の日は、
12月24日なのである。
一世一代の決戦は、まだ終わっていない。
始まったばかりなのだ。
またとないチャンスを無駄にはしない──
「──って、思ってたのに」
当日。現地の最寄り駅で呟いた。
そして、すぐ隣にいた人々に向かって叫んだ。
「何で皆さんが居るんですかっ!?」
そこに居たのは、
えへへ、と歯を見せて笑う花理崎 菜那と、
同じように笑い、たぶんその目には賑やかな園内しか見えていない初葉 美雪
と、
私の大声に思わず身体をビクつかせた乾 寧音さんと、
何が何やら判っていないと言った様子の虹際星剛だった。
「私が誘ったの。あれだけ不安そうだったら心配になるじゃん?だから私行きたいなー、って思ったの。
んで考えたわけよ、『どうせ遊園地行くなら皆さん連れて行けばいいじゃん』って。
だからこっそり誘っちゃいました」
と菜那はコメント。
「ねー、ぶちょーさんまだー?ウチ早く『Pegasus』乗りたいんだけどー!」
と、美雪さんはやはり園内のジェットコースターか見えておらず、
「わっ、私は、美雪ちゃんに連れられて来ただけで……!」
寧音さんはその美雪さんの腕にしがみ付き、
「オ、オレもだよ。お呼びでないならおいとまするけど……?」
と、虹際さんはどうすれば良いのか判らず帰宅宣言し始めた。
慌てて私と菜那は引き止めた。
「ほら、みんな困ってるじゃない!別で回りましょ!」
「薄情なこと言わないでよぉ。そんなことしちゃったら、それこそ虹際さんが困っちゃうよ?」
「いや、だからオレは離脱しても構わないんだが……」
「おー、Pegasus行ったー!ねー、ぶちょーさんまーだー?」
「まだみたいだよ美雪ちゃん……」
皆、口々に喋っている。
たぶん今この駅の中で一番賑やかな5人組だろう。
そこへ。
「みんな賑やかだね」
と、爽やかな声と共に、1人の男が現れる。
「黒雨さん!」
私は叫んだ。救いの神の名を叫ぶように。
しかしそれ以上の勢いで。
「ぶちょーさんキターッ!もー遅いよー!ほら、ぶちょーさん来たんだし早く行こっ!ほら行くよ、寧音!」
と美雪さんがまるで子供みたいに張り切ってギャラクシー・キングダムに向かって突き進んで行く。寧音さんの腕を、引き千切れそうな勢いで引っ張りながら。
「ちょ、ちょっと美雪ちゃん……!?」
それを見送る私たち4人。
「2人だけじゃなかったんだね」
私を見て苦笑いする黒雨さん。戸惑うのも無理はない。『2人で行く』と、私から聞いていたのに、ちょっと遅刻気味で来てみれば、賑やかな知り合いが居たのだから。
心情だけで言えば、私が此処に着いた時と同じだろう。
私がどうにか応えようとすると、
「杏紅から聞いて、私も行きたいなーって思って、皆さんも誘ってみたんですー。遊園地って、大勢で行くに越したことはないでしょ?」
と菜那が割り込んで来た。
「何言うの菜n……」
私が返そうとすると、菜那はその手の人差し指を私の唇に当て、喋らないようにした。
「大丈夫大丈夫。邪魔はしないし、どっちかって言うとサポートに回るからさ」
私の耳元まで顔を寄せ、菜那は小声で言った。
そう言われてしまうと、何も言い返せない。
「じゃっ、行きましょう!皆さん!」
言って、菜那は先に行ってしまった美雪さん達を追った。
「……で、では」
黒雨さんを前に、私はまた緊張した。
そんなぎこちない様子の私を見ても、黒雨さんは微笑み、
「うん、よろしくね」
と言った。ついでに虹際さんも、
「今日は楽しんでいこう!」
と、変に張り切っていた。
そして私たちも、一路、遊園地──と言う名の戦場──に向かうのであった。
十数時間後、“とある事実”を知ることになるのを、知る由も無いまま──。




