プロローグ
2046年 某日──
「ヒューマ……ノイド……?」
「そう。SF映画とか観てたらよく出てくるでしょ。俗に言うサイボーグってアレよ」
その名前を聞いて理解に苦しむ後輩研究員に、ブロンドヘアの女性研究員が答える。
「けどただの人型の機械じゃないの。噂によれば、その“人造人間”って言うのは、『成長』するらしいわ」
「『成長』……?……って、何も珍しくないじゃないですか。人工知能が成長なんて、何十年も前から……」
「違うわよ、そんなことくらい知ってるわ、ナメてんの?」
初歩的な返答に苛立ちを見せる女性。
「“身体的な”成長よ。機械なんて大きさが変わらないのが当たり前。けどそれを覆す金属を、“先生”は作り出したのよね」
「……でも、それって何故造ったんでしょう」
「ちょっと……アンタの頭はピーナッツなの?そのカッチコチの頭、働かせなさいよ」
後輩の頭を、人差し指でツンツンと小突く女性。じゃあ何なんですか、と後輩は返した。
「最近の社会情勢、アンタも知らないわけじゃないでしょう?“極度少子高齢化時代”。そのお陰でガクンと減った日本人口を、人間にそっくりな機械で、補充しようってワケ。
“先生”にとっての一世一代の計画と、国の計画の利害が偶然一致したことによる、人間の歴史を大きく揺るがす大発明ね」
「……それもどうなんでしょうね、実のところ。……例えば、差別、なんてもんは生まれないんでしょうか」
「そんなの気にしてちゃ、何も得られないわよ。よく言うでしょ、何かを得るには、何かを犠牲にしなきゃなんない、ってさ」
ほら、行くよ、と研究室から促す先輩研究員に、後輩はそれでも疑問を抱いたまま、応えるのだった──。