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そうして行くうちに、どうしようにも魔法使い達は広間を賑やかしていった。その賑わいに、一人眠り続けていたヒスイが、ようやく目を覚ました。そして彼女の寝ぼけ眼に飛び込んできた光景は、シアを中心に魔法使い達が賑わうという、ヒスイがこれまでに望んでいたものだった。右頬辺りの髪にくしゃりと寝癖をつけたまま、被された布を引きずり立ちすくみそれをただ眺めていると、シアが彼女に気づいた。
「起きたか。どうした?」
「いえ…。おはよう、ございます」
「聞かせたい話が、多々ある。早く顔を洗ってこい」
「…はい」
言われるがままにヒスイは顔を洗いに行った。溜まった湯で髪をとかし、それに浸した布を頬にあてた彼女は、涙を流している事に気がついた。それは、それはとめどなく溢れ自身ではどうしようにも止められず、ヒスイに出来ることは大きく出そうな泣き声を必死に堪えることだけだった。それは彼女の中で、セイレンの存在や最近のシアイの事柄や変貌、そして二人に対しての自分の存在等、数多ある思いや感情を通り越した彼への想いが溢れ出たものだった。
それからしばらくして、ヒスイは布で涙を拭い湯気に曇った鏡を掌で払うと、そこに写った彼女の顔はその気持ちを表すに十分な程、凛とした瞳に澄みきった表情をしていた。ヒスイが広間に戻ると魔法使い達は重なる疲労もあり、それぞれ帰宅していた。ぽつりと一つ明かりを灯し、机に向かうシアが居た。よく見ると机の上には、既に数枚の殴り書かれた物が溜まり、それをヒスイが手に取るとシアはようやく彼女に気づいた。
「遅かったな」
「私も一応女性なので。支度は沢山あるのです」
「すまない。では、そろそろ話して良いか。我が触れた、この数日らしからぬ時の事を」