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シアが法院へ戻ると、そこには誰も居なかった。自身の捜索と夜が深まる頃というのも重なり、広間には月明かりが差し込み扉の閉まる音が響き渡ると、シアの足音がその後を引き継いだ。そして暖炉へ火を灯すと窓という窓へ布を掛け、暖炉前の大きな椅子へ腰を下ろすと、シアは火の温もりに身体の凍てつきを思い出した。薪の燃える音を聴きながら凍てつきが溶けていくのを感じ、彼は身体を横にして眠りについた。
朝を迎える少し前、隣の町でシアが城下町へ戻った事を聞いて、急いで戻ったヒスイ等が法院へ帰還した。煙突から出る煙を見て、彼女等は急いで中に入ると暖炉の前に居るシアを見つけた。慌ただしく騒がしく、駆け寄ったヒスイ達を他所に彼は眠ったままだった。その様子に彼女は床に座り込み、魔法使い達は顔を見合せ安堵した。
陽が高く昇る頃にシアは目を覚ますと、窓に掛かる布の隙間から外の光が薄明かりとなり差し込む部屋を見渡した。彼の周りには沢山の魔法使いが横になり眠り、一番近い場所でヒスイが横になって居た。シアは薪を暖炉に足すと、自分を覆っていた布をヒスイに被せた後、皆を起こさないように静かにその場を後にした。そして机まで向かうと、小さな明かりを灯して筆を取った。
シアが綴り始めて暫く、陽が沈み始めようかという時に魔法使い達が目を覚まし始めた。その者達が彼に声を掛けようと近付き、口を開こうかとするとシアは筆を止めてその手をその者達へ向けた。そして視線をまだ眠って居る者達へ向けた後、また彼等を見て「…静かに」と囁いた。魔法使い達はそれに頷き少し頭を下げた。シアが戻った事に涙を堪えるような者も居る中、彼等は一人また一人と握手を交わしていった。