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彼の姿が歪みへ消えると、周辺の音や冷気に雪の匂い等全てを吸い込み歪みも閉じた。様々な音が流れ込み、何事も無かったかのように景色が戻ると、ヒスイは霧を払った。それから数日経っても、シアが戻る事は無かった。彼が姿を消してから三日目の朝、ヒスイや魔法使い達は雪原に出て魔法陣の周辺や、遠方の町にも捜索したがシアの情報は無かった。ヒスイ等が彼を捜索している頃、白王とセイレンそしてリアリ等の王族は隣国の者達との会食へ出向いていた。
「止せと言うに。懲りずにまたあの魔法を使ったが為に、未だ行方が分からぬようだ。セイレン、お前もしかと気を持て」
雪車の中で白王の話が隣に座るセイレンに響くことは無く、彼女は窓から遠くを眺めるばかりで時は過ぎた。ようやく国境の街に着くと、隣国である樹の国から王や護衛の者、そしてセイレンに会うために来た者が先に到着していた。お互いに挨拶が済むと、食事時までのひとときの間セイレンは手を取られるままに、相手の男と二人で街中へ出た。
「嫌々来たと、いう様子だね」
「……」
「私もここに着くまでは、面倒な事になったと思い悩んだよ」
「それならば、もう帰りましょう」
「待って、待ってくれ。最後まで聞いて。ここに着いてから、色々と考えたんだ。どんな人に、会えるのだろうかと。雪国の事は、話でしか聞いた事が無い。どんな人と、どんな話が出来るのだろうかと。そして今出会えた目の前に居る君に、正直驚いた。私が想像していた人より、遥かに美しい。見惚れてしまった。私は君を、もっと知りたい。だからこのひとときだけでも、話をしてくれないか」