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シアは慌てて上着を羽織ると、法院の門前へ出た。血相を変えた彼を見た魔法使い達が様子を見に後を追って行くと、シアは囁きながら腕を振ると首を傾げたかと思えば、また囁き始めて腕を降っていた。そして次の瞬間、彼が右腕を下から上へ振り上げると雷に似た大きな音が響き、彼の目の前の景色が切り裂かれたように歪んでいた。それまでシアイを不思議に思いつつ見ていた魔法使い達は、目の当たりにしている状況を理解出来ずにいた。そんな中、息を整え裂かれた歪みに入ろうとするシアを、城下町の方から駆け寄って来るヒスイが呼び止めた。
「シア様。何をしているのですか。これは、どういう事なのですか」
「それを、知る為に向かうのだ」
「城での事を耳にしました。何故です。何故、彼女でなければならないのですか」
「…さあな。我にも分からぬ。それよりも、戻ったらまた書物を纏めてくれないか」
「待って下さい。戻って、来れるのですか」
「…さあな。それも、分からぬ」
それを聞いたヒスイは、胸元へ手を当てながら囁いた。そうすると彼女の影は瞬く間に霧になり、シアイと同じ様にヒスイはそれを纏えていた。彼女がその魔法を扱えた事に、魔法使い達は響めきシアイですら驚きを見せていた。
「私を、使って下さい。法院の頂を、失う事は出来ません」
「お前にその程度と見られるとは。我も、まだ未熟だ。我は必ず、これを魔法にしてみせる。勿論、恐れはある。死、というものは、想像を絶するものだ。しかし法院の頂として、未知なる魔法の最前線へ踏み入る事は、
他の誰にも譲れん。そしてヒスイ、流石だ。その魔法を扱えた事と…」
シアは彼女にそう言って囁くと、彼自身も霧を纏った。そして深く呼吸をすると、歪みに左手を触れさせた。さらに腕まで入れると、その左腕を引き出した。
「我に心を配らせるより、我が戻った後に積み重なる物を、纏められるかに心を配らせて居ろ」