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皆が平常な日に戻り、あの魔法試験の噂が広まり相まっている頃、シアはまだ思うように身体を動かせないでいた。霧を現す魔法に加えて、あの魔法陣の魔法を併用した事により、彼は力という力を使い果たしてしまっていた。数日後にようやく身体を起こせたシアは、医師を集めて血の研究状況を聞いた。しかし大きな進歩は確実に見られるものの、彼の求める状態では無かった。その場で意見を出し合い話を始めた彼等を他所に、床にもたれるシアの頭にはヒスイの存在の大きさが不意に過ぎっていた。無言にそれをかき消すようにすればする程に、彼の焦りは積もっていった。
その日から数日、魔法陣を使った魔法について殴り書いた書物が溜まり始めた頃、シアはようやく身体を動かせるようになった。そして城へ行くと、白王へまた先日の契約を使用する事を申し出たが、それは却下された。偶然にもその場に居たリアリにも、遺体の状態や民の事を考慮すると承認出来ないと言い渡されてしまった。シアは城を出ると頭を抱えるように顔を覆った後、大きく息をした。吐き出された白い息を眺めたその時、後ろからセイレンが声を掛けた。
「お身体、もう良いのですか」
「身体は、もう良い。本当にすまない。申し訳ない。必ず、必ず魔法にしてみせる」
不安気な表情から出た零された声と、彼女に心を配らせてしまっている現状に、シアの持ち得る気は痛むばかりだった。彼はセイレンをそっと抱き寄せてしばらくすると、彼女へ微笑んで帰って行った。翌夜からシアは、人体以外を魔法陣へ使って魔法を試み始めた。それは小さな箱や大きな岩、そして様々な動植物だった。雪車を使うことを控えるために、陽が落ちると直ぐに魔法陣を使い、その足で少し離れた雪原まで歩き、陽が昇る前に法院へ戻る日々が続いた。身体に負担は掛かるものの、霧と併用しなければ連日魔法陣を使用する事も可能になっていった。夜な夜なにひっそりと行っていたシアだったが、その噂は忽ち拡がっていった。