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ヒスイが帰った後、彼はいつも通りに数冊の書物を手に取り奥の部屋へ入ろうとした。ただ、いつもと一つ違いがあったのは、その場にセイレンが居て、それにシアが少しお辞儀をして入ったこと。そして中からは度々爆発音や何かがぶつかる様な音が漏れ、静まると大きな扉が開き彼が出てきた。書物をヒスイの机に置いて、シアはまた新たな書物を手に取り奥の部屋へ入っていく。その単調な光景にただただ、セイレンは見惚れていた。
「黒い髪にあの赤み掛かる瞳、深く青い衣にあの白く綺麗な手。まるで夜空を眺める様。とても、とても素敵」
彼が部屋へ入ると彼女は窓から夜空を見上げ、彼が出て来ると彼女は彼を見つめた。それが繰り返されてしばらく、彼は彼女を気にも止めず書物を片手に部屋中を歩き始めた。歩く事に意味など無く歩む方向にも意味など無く、ただ書物を見つめ筆を取り壁から壁へ棚から棚へ、窓から窓へそして書物から彼女へ視線が移り、ようやく彼はセイレンを思い出したように声を掛けた。
「ああ、申し訳ない。このような時まで放ってしまった。城まで送ろう」
ヒスイにまた小言を言われると思い、彼は慌てるようにセイレンを法院から連れ出した。そして雪が積もり静まる町の中を歩きながら、彼女はシアの横顔に見惚れていた。一方法院から先に帰り、眠ろうと毛布に包まったヒスイだったが、何故か持ちえる気が落ち着かず、瞼を閉じれば閉じるほどに眠れずにいた。
「どうしたのかしら。眠ろうとすればするほどに、気持ちが慌ただしくなってしまう。夜は、こんなにも長いものなのね」