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「今、取り掛かっている魔法はどうするのだ。何故今なのだ、今でなければならないのか!?……いや、申し訳ない。我がそなた等の信頼を、失うような事をしたのだ。我は何も言えぬな。承知した。しかしヒスイ、法院の職を辞しても魔法の事柄からは遠ざかるな。そなたには才がある。それを見失わないでもらいたい」
シアの荒いだ声にもその他の言葉にも、ヒスイは彼を見る事なくそして少し頭を下げて法院を出て行った。シアはその後ろ姿をその場でただ見送り、周りの魔法使い等はそれを見守るしか無かった。ヒスイが来なくなり彼女の机には、また仕事が溜まっていた。
「違う。そうでは無い。これも、違う」
シアは頭を抱えるように、ヒスイに代わって魔法使い等が纏めた物へ目を通していた。稚拙な纏まりや理解が届かない等で、書物は一考に纏まらなかった。文字で伝わらないならばと、彼は魔法使い等に魔法を使って見せた。しかし彼等には、見たままのその光景を言葉にする事が出来なかった。シアの伝えたい事を、想像する事が出来なかったのだ。そんな日々が続く中、シアは新たに思い付いた魔法を実践する為に白王へ会いに行った。
「そのような事が、可能なのか」
「それを試みたいと申している」
シアの話を聞いた白王は、小馬鹿にしながらも承諾した。そして城を出て直ぐに、彼は雪原へ出た。雪車に乗せてもらい城下町が見えなくなりさらに少し進むと、シアは雪車を降りて歩き出した。雪が踏まれる音に雪を踏み締め滲む汗を拭いながら暫く進むと、徐ろにシアは雪を掻き分け始めた。雪車して地面へ円や模様、文字を殴り書き始めた。息をすることも忘れていた彼に思い出させるように、不意に身体が顔を上げさせた。息を荒く呼吸をするシアの目に飛び込んで来た景色は、月や星が散りばめられた澄んだ夜空だった。それへ白い息が掛かりながら暫く眺めた後、シアはゆっくり深く夜空を吸い込むとまた地面へ物書きを続けていった。