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ヒスイが城から出ると、陽は落ち星が見えていた。それを見上げながら大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。冷たい空気は彼女の怒りを鎮めるように冷やし、白く吐き出された息はヒスイの中に掛かる靄が吐き出され薄れていくように見えた。
そして歩き出してしばらく、落ち着き始めた彼女はシアが暴れた街路店に差し掛かった。崩れた壁も壊れた物も、元通り以上に整えられていたそこに、店主が居た。彼だけでは無く、理由を話さないのは被害者の男達、あの夜居合わせた者達の全てが、原因を探る魔法士団に理由を話していなかった。この時ヒスイは重く閉ざされていた店主の口から、あの夜を聞いた。そして直ぐにその場を去りその足で、被害者の男たちの元へ向った。彼等の話す夜は、ヒスイにとって不愉快でしか無いものだった。
「彼が理由を閉ざしたから」
彼等は口を揃えて、理由を話さなかった理由をそう言った。ヒスイは雪を踏み締め歩いた。その足跡を見れば、彼女の怒りが溢れていることが誰でも分かるものだった。そしてその怒りの矛先は、ヒスイがどうしようにもセイレンへ向いていた。しかし彼女が自室へ辿り着く頃には、あまりにも強く燃えすぎたその怒りは、灰のように燃え尽き燃え殻になりそれ等の悔しさにヒスイは涙を注いだ。
「何故、何故なの。どうして彼女なのですか。どうして…、何故…」
ヒスイは燃え尽きた灰を握り潰すように毛布を握り締め、それに顔を埋めて泣き叫んだ。