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シアは立ち上がると、彼女に背を向けて部屋の奥の方で腰を下ろした。それを聞いたセイレンは「分かりました」と言って、両手を重ねて瞼を閉じた。一兎の雪兎を牢の中へ生み出した。
「ではその子を私の代わりに、側へ置いてください。側に、居させて下さいね」
そして彼女はまだ顔を覆うように布を被ると、階段を登って行った。足音が遠のいていく中、シアの周りを駆け回る雪兎を横目に見ていた彼は、寝転がると先日の夜を思い出した。思い出せば出す程に男の言葉は刺さり、あのひとときの憎しみが痛みを蝕んだ。意図せず身体を起こした彼の目の前には、雪兎が静かにシアを見つめていた。ひとときそれを見つめた彼には、雪兎と戯れるセイレンとのあの夜が過ぎり、溜息をつくように項垂れながら雪兎へ手を翳して囁いた。
「何故です。どうして面会までも許されないのですか!彼は罪を犯しましたが、被害者も彼を許し、牢に入りもうひと月が経とうとしています。ここまでの罰を、与えられる程では無い筈です」
「ならぬ。特にヒスイ様、貴女が会うことは許せぬ。法院の者であり、かつあの男に最も近しい存在だ。何かを企てられる事も、考えられる。疑いを掛けられるのも、不本意であろう」
「私も彼も、そのような人間ではありません!取り消しなさい!」
「誰に向かって言っている。王に向かって何だその物言いは!」
「お父様、少しいいですか。先日、シア様に会ってきました」
言い争う二人を割るように、セイレンが現れた。彼女はシアの様子や言葉を、二人に聞かせた。それを聞いたヒスイは、怒りを無理矢理抑えるようにその場を去り、白王はそれらの様子に背をもたれさせ鼻で笑った。