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「もう一度問う。理由は言えないのだな」
「理由など無い。今携わる事柄について、思い詰めて居たのだろう。すまなかった」
「分かった。しかし理由は何であれ、処罰は受けてもらう。そなたのような、力のある者だとしてもな」
シアはその夜から、牢に入った。城近くの地下に在るその独房で、彼にとって無意味な手枷と足枷を嵌められた。天井を見上げると、月明かりや陽の光が遠くで見えた。静かで薄暗いその場所に、彼は懐かしんでいた。人が牢の側へ来るのは、食事時等の数度だけでそれ以外には何も無い、ただただ時が過ぎるのを眺めるだけの、無に近い場所。しかし、彼にはそんな場所も関係は無かった。書物が無い事だけが気に掛かったが、シアは瞼を綴じてひとつひとつ思考に想像を重ねて、頭の中で幾つも魔法を使っていった。試行錯誤を頭の中で繰り返し、幾つもの魔法を見詰め直していると、牢の外から女性の声がした。シアの名前を呼ぶその声の主は、セイレンだった。顔を隠すように覆っていた布を下ろすと、彼女はシアに理由を聞いた。
「そなたもあの場に居たであろう。理由は無い」
「そんな筈ありません。貴方が理由も無く、暴力を振るう事なんて無いもの。今からでも一緒にここを出て、お父様に話しましょう。きっと理解してくれる」
「我は、法院の頂に立つ者だ。魔法に、礎の源として携わる者。その我が魔法を、ただの暴力として行使した。魔法を愚弄する行為であり、これは恥だ。相応の罰は受ける」