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数日後シアが法院に訪れると、薄明かりの灯る室内に窓から差し込む月明かりに照らされ、その明かりの先を見上げるセイレンが一人佇んでいた。そして彼女の視線が、彼を捉えた。
「お待ちしておりました。ようやく、ようやく叶ったのですね」
彼女の目が彼を見つけると同じ時、奥の部屋からヒスイが戻り彼等を見た。その光景に彼女の心臓は、これまでに無い程大きく鼓動した。そしてセイレンへ「誰だ」と言った彼の言動を取り繕おうと、ヒスイが出したその声はあまりにも、あまりにも温かく温もりの滴る声に掻き消された。
「私の名は、セイレンと申します。シア様、私は今日ただ貴方に会いたいというその願いを叶えよう、そう思いここへ訪れました。そして今の私の願いは、今宵のひとときの間、ただシア様の側に居たい。このセイの願いは、叶いませんか?」
「ああ、そなたがセイレンか。幾度と足を運ばせて申し訳ない。その願いに我は構わないが、そなたにもあまり構うことが出来ぬが良いか?」
彼女の話に咄嗟にヒスイを見た彼は、顔を引きつらせるようなそれに慌て、精一杯に彼は取り繕おうと応えた。
「またそのような言い方を。セイレン様、無礼に悪気は無いのでお許し下さい。シア様。王女様を、あまり遅くまで引き付けないように、お気をつけ下さいませ」
呼吸を忘れそれを見ていた彼女は、大きく鼓動した胸の痛みに気が戻り、そう言って帰り支度を済ませて足早に出ていった。