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その日から、シアは夜になると森林へ趣き気まぐれに獣を狩るようになった。ただ材料としてなのか、快を得ているのかは本人にしか分からないが、研究は捗り始めた。そしてヒスイは彼から距離を取るように、顔を合わせる機会が減っていった。彼女は日が落ちる頃には自室へ帰り、血についての詳細を整理することや、偶に顔を合わせるシアの様子など、それ等を踏まえて『夜』を綴っていった。そしてしばらく、そのような時が経つと、夜な夜な人目に触れるようになったシアの噂が立ち始めた。
「夜な夜な彼は何処へ行くのだろう」
「朝靄の立ち込める頃に戻って来るらしい。すれ違った者に聞いた話では、黒い霧を纏うような姿で薄らと血の匂いがするらしい」
「まるで化け物だ。いくら法院の頂だとしても、王は何故あの異様な者へ不信を抱かない」
「逆らえないのさ。王族は魔力も弱いと聞く。そしてあの王女と結ばせ、
関係を良好に保ちたいのだろう」
「ああ、あの王女か。どちらもど……」
巡回しながら話す魔法使いの側を、白王が横切って行った。彼等の会話を聞かれた事は、明らかだった。いつもならばすれ違い時は、彼等へ労いの言葉を白王は必ず掛けるからだ。それが今は怒りを抑えきれない様子で、足早にその場を後にしていった。そして噂通りに夜な夜な何処かへ姿を消すシアを想いながら、その夜もセイレンは自室で一人窓の外を眺めていた。
「あの人は、今宵も何処へ。その場には、彼女も居るのでしょうか」