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ヒスイ等が向かった頃、シアは血濡れた衣類を脱ぎ捨て、湯で身体を洗い流していた。湯をかぶる前にも散々洗った両腕に両手を眺め、徐にまた拭い始めた。そしていつもより長く湯を浴び着替えたが、シアにはまだ血の臭いを嗅いだ気がした。恐らく彼しか感じていない血の感触に、気掛かりな彼は普段よりも香水をつけて気を紛らわせた。そしてシアが着替えを済ませて広間へ出ると、そこへヒスイが戻ってきた。
「材料はあったか」
「はい。今運搬の準備に、取り掛かっています」
この時ヒスイはいつもより香るシアの香水に気付き、それが血の臭いを気にしての事だと悟った。彼女がまた胸元に痛みを感じていると、その場にセイレンが訪れた。彼女と目が合うと、ヒスイは少し頭を下げようとした。しかし彼女の姿はセイレンの笑顔を消し去り、ヒスイを無い物として捉えるように、彼女の横を通り過ぎてシアのもとへ歩いた。
「ああ、セイ。来てくれたのか。心を配らせてすまなかったな」
「もうお身体は平常ですか?良かった。本当に良かった。あら?シアイ様、いつもよりいい香りがしますね」
「香りが強過ぎたか?それならばすまない」
「いいえ。とても良い香りで素敵です」
「そうか。良かった」
寄り添う二人を少し離れた側で見ていたヒスイは、それらを聞いて伏せ目がちに頭を下げてその場から立ち去った。
「良い香り、ですか。あれは腐臭だわ。毒に蝕まれ、腐敗している彼の傷の匂い。良い香り、ですか。哀れね。とても」