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朝を迎えてしばらくした頃、ヒスイが法院へ来ると彼女の机には殴り書かれたものが数枚散らばっていた。それを抱き寄せるように集めた彼女は見つめるように一枚、また一枚と見て整えると、そっと机の隅に置いた。そして窓から外を眺めると、ふらりと外へ出た。城下町をひと歩きと、雪原を眺めながら雪解け流れる川へ辿り着いた。しゃがみ込みしばらく、雪が落ち川の流れる音に、雪が溶けて川へ染みていくそれ等に触れながら見つめていると、近くの茂みから音がした。ヒスイが立ち上がりその方を見ると、茂みから小さな白い兎のようなものが飛び出した。それは彼女が知る由もない、シアとセイレンが作った雪兎だった。
「あなたは、可愛いわね」
ヒスイは近付いてきた雪兎を撫でると、それは彼女と戯れ合うように辺りを駆け回った。そしてしばらくするとまた、茂みの中へ戻って行った。雪兎を見送るようにその方を見つめたあと、ヒスイは少し微笑み法院へ帰って行った。
その翌日の同じ頃、ヒスイが夜を机に広げ物書きをしていると、霧を纏ったシアが姿を見せた。彼の姿は彼女だけではなく、その場に居た者の目を容易に留めさせた。靄の掛かるように見ているのに見えない様に、それへ目を凝らせば凝らすほどに見たくない物から目を逸らしたい気を持ち得たヒスイは、「少々空けるぞ」と陽のもとへ出て行くシアに何も返すことが出来ずに、ただその方を見て佇んだ。
「ヒスイ様、あれは一体…」
「私にも、分かりません」