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彼女を城内へ送りシアが法院へ帰り着いた頃、空は朝を迎えようとしていた。彼は一つの窓を除き、陽の光を遮断するためにその他の窓を布で覆っていった。そして窓を眺めながら椅子に座り、朝を待った。しばらくすると、窓からは一筋の光が差し込み始めた。シアはそれを見ると、ゆっくりと腰を上げ右腕の袖を捲った。そしてこれまでの様に目を閉じながら囁き始めると、左手に光が灯り始めた。そうなると彼は途端に大きく目を見開き、食いしばりながら呼吸を留め灯る左手を胸へ叩き付けた。その瞬間に彼の身体から黒い霧が舞出るように噴き出し、シアを包むように留まった。彼は咳込み膝をついたが、直ぐにゆっくりと立ち上がった。視野に入る手や脚を見て薄らと笑みを溢した様に見えたと思えば、だらりとさせながらも霧を纏う右腕を陽に晒した。
「醜くは、あるやも知れぬな。貴様に目を逸らされようとも、我はこれを受け入れよう。どう足掻いても、交われぬのだから」
陽に晒されている彼の右腕は、これまでとは違い赤らむことも無く痛むことも無かった。しかしそれは陽に目があるとするならば、霧に覆われたその腕から目を逸らすと例えるよりも、無いものとして扱うような、存在に無視をするような雰囲気を、敢えて醸し出しているようにも見えた。恐らくシアもその感覚を否定する事が出来なかった。彼はしばらくそのまま腕を晒し続け、陽に向かって一歩、また一歩と歩み陽のもとへ出た。しかし見上げる事はせずに振り返り、陰へ歩み戻り陽に背を向けると、さっと霧を払った。そして彼は部屋から出て行った。振り払われた霧に混じりた寂しさを、横目な陽に覗かれながら。




