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「何処へ行く。今宵は城へ向かうと、伝えたはずだ」
「私は、帰って休みます。連日の努めで、疲労が見えました。纏めた物は、机の上にありますので。あとは、お任せしますね」
ヒスイはそう言って少し腕を伸ばしたあと、抱えていた上着を羽織って帰って行った。そして彼女が指差した机の上には、纏められた書物が置かれていた。シアはそれを手に取ると、暫く見つめたあとに出掛ける支度を始めた。
「迫り来る雲に陰り薄まろう夜、覆われ溺れて沈み戯れな滲む光よりも、また放たれる光を願いながら、その時に添えられる色に近づきましょう。私も、まだ。まだ、足りていないから」
ヒスイは白の吐息に寒さを受け入れながら、凍てつきに似た痛みを抱き締めるように、夜を見上げてそう呟いた。彼女が帰り着いてしばらく、シアは白王等に纏めた『夜』の続きを見せていた。それを流し見るように見ていた白王は、自らを見つめるシアに気付いた。
「ああ、いや。粗雑にしている訳でない。目を通した所で、私の理解が遠く及ばぬのだ」
白王は側にいた魔法使い達に書物を手渡すと、シアに少し待つように言ってその場を離れた。そしてひとときもしない間に扉の開く音がすると、セイレンが駆ける様に階段を降り、それに遅れながら白王も戻った。彼女は魔法使い達や従者を気にも止めずに、シアへ抱き着いた。微笑むような白王に断わりを入れて、二人は外へ歩きに出た。
「待たせてすまない。あともう少しで、陽のもとに出る事が可能な筈だ」
「無理をなさらないで。前にも話した通り、病であれば仕方がないと思います。私はこうして一緒に居られれば、それで良いのです。お身体を大事にしてください」
「いいや、もう少し皆と同じ様に振る舞えなければ。あと少し、待っていてくれ」
「本当にお気になさらないで下さい。今宵も私は、お会いできて嬉しい。普通にこうして会えることが嬉しい」
枝垂れるようにシアへ抱き着くセイレンに、彼は彼女の腰に手を添え手を握った。そしてそのまま二人は温め合いながら、ひとときを重ね合っていった。




