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月明かりに照らされた彼女の影が、薄らと見える程になる頃にヒスイはゆっくりと顔を上げた。そしてその影を見つめながら、自らの熱を冷ますようにゆっくりと息を吸い込み、白い吐息を掛けた。
「どちらが、私の本音なのでしょう。いいえ、どちらも本音なのね。あなたの光は、強すぎる。夜が、明けらかとしてしまう。朝を迎えれば色が音を起こし、音がさらに色を足していく。生き活きとした生気に溢れ、温もりにうたた寝るのも素敵なこと。皆にはあなたが無くてはならない。しかし夜に、居場所は無いの。陽が出れば朝に昼と、光を隠して夜に潜めばその影は、より色濃く夜を陰にするでしょう。お気付きになられていないのね。あなたの光が近づけば、夜は夜を彩る事が出来ないの」
ヒスイが奥の部屋へ戻ると、シアの様子は昨日や先程と同じように影と向き合い座っていた。時折笑いそして立ち上がり、影の前を彷徨きながら怒りを見せつつも、向き合う彼等と向き合いながら、彼女の夜も過ぎて行った。そしてそんな夜が続いた三日目の夜に、彼等に変化が起きた。徐にシアが立ち上がり手を差し出すと、影がその手を掴み立ち上がった。握手をしているように見える彼等を、ヒスイや魔法使い達が見守っていると、シアは彼を迎え入れる様に腕を広げ、それに応じて影も腕を広げそして二人は抱き合った。その途端に影は彼の身体を染み込みながらなぞり通ると、彼の陰らしい影へ戻って行った。そして彼は崩れ落ちる様にその場に倒れたが、先日の事が過りそれを彼女達が息を潜め見ていると、シアが片手で合図を出して呼び込んだ。
「ヒスイ、二日で纏めて城へ行くぞ」
彼は一人で歩くことも出来ず、肩を借りながら彼女へそう伝えた。その後彼は眠るまで影との事を話し、それをヒスイは書き留めた。そして翌夜には、自ら見ていた光景にまたシアの話と擦り合わせた。自らの見たものと、笑顔な彼の話とは掛け離れた印象の違いを感じた彼女が抱いたのは、彼に対する想いを抜きにした時の、魔法使いとしてシアに対しての嫉妬に近いものだった。そして二日後の夜に、それはようやく纏め上がった。