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翌夜になると、シアはまた同じ様に奥の部屋で影と向き合い始めた。昨夜の事もあり、ヒスイを含めた魔法使い達は厳重に警戒感を強めながらそれを見守っていた。そんな中彼女が呼び出され広間へ向かうと、セイレンが訪れていた。
「シア様には、会えませんか?」
「昨夜に引き続き、奥の部屋で魔法に仕えていますので…」
「お忙しいのですね」
気を落とすようなセイレンを見て、ヒスイはさらに魔法を重ね、離れた所から見るということなら構わないなどと言おうとした。王女である彼女に新たな魔法の見物をしてもらえる事は都合上良く、自分が注意を怠らなければ安全の確保を可能にする自信もあった。そしてシアなら、そう指示すると感じたからだ。しかしヒスイの口から出た言葉は、彼女の身を思う事を建前にした、拒絶だった。
「とても心苦しいのですが、今宵はお身引き下さい。セイレン様の身を、危険に晒すわけにはいかないのです。昨夜も、怪我人が出る程の事柄なので。本当に、申し訳ありません。私も、もう戻らなければならないので。失礼致します」
ヒスイは彼女の口を噤ませるように、言葉を連ねた。そしていつも以上に落ち着かせた態度に、入り口まで見送り扉まで行くと出口を開いた。セイレンがいつもの様に少し頭を下げ顔を上げると、ヒスイは深々と頭を下げていた。その姿が印象に残る彼女が少し歩いて振り向くと、ヒスイはまだ頭を下げ続けていた。手厚く丁寧過ぎる丁を重ねた対応に、靄の立ち込むような気を持ち得たセイレンは、歩みながら空を見上げた。
「今宵の夜も、とても綺麗。あの星にその星そして、大きな月。あなたはいつも居るのね。夜には欠かせない、そんな月。素敵ね。素敵な夜だわ、とても。あなたは、欠かせないのかしら。あなたはあなたが居ない夜など、夜ではないなどと、お思いかしら。あなたが居なくても、夜は夜でとても素敵な夜なのよ」




