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「……イ様。……ヒスイ様」
いつの間にか眠っていたヒスイは、様子を見に来た魔法使いに起こされた。彼女は時を聞き、慌ててシアの方へ目をやると、彼と影は胡座でどことなく談笑している様に見えた。
「もう朝靄が立ち込めるというに、あれからずうっとあの様子で」
「……そうですか」
彼女が眠っている間、シアは時折笑いまたは怒りを見せながら、物言わぬ影に向かって立ち歩き座り寝転びながら、今の今まで話し続けていた様子だった。彼女が葉湯を飲みながら彼等を見続けてしばらくすると、シアが座ったまま動かなくなり、見ていた魔法使い達が気に掛け始めた。
「眠ってしまわれたのですかね」
そう言った魔法使いが、入り口付近から何重にも施してある魔法の膜で覆われている中へ、その膜一歩手前で座ってい居るヒスイの横から入ろうとした。彼女がそれに気付き止める間もなく魔法使いが膜の中へ半身を投じた瞬間、ヒスイだけでなく周りの魔法使い達を、歪な音の様な感覚が貫いた。身を入れた魔法使いには、その音が聴こえたかのように怯み竦んだ。そしてその身の右肩を、撓りながら瞬く間に伸びてきた鋭利な影の先が貫いていた。魔法使いには聞こえた、肩を貫く影から「邪魔をするな」と。声でも音でも無いそれは、痛みなど全てを串刺しにするように、魔法使いの肩を貫いていた。そしてその影を伝いながら彼等に辿り着くと、薄らと振り向き睨むように見開くシアの目があり、彼は初めに放った青白い光を左手に灯し、叩き折る様に魔法使いへ伸びる影を遮断した。外へ引きずり出された魔法使いは、しばらく気を失う事も許されず震えたまま硬直し、痛みが追い付き思い出す様に悲鳴をあげると、その歪な音と共にようやく気を失った。その後またしばらくして、本当に彼が眠ると影も彼と同じ態勢を取り、そのまま彼の影らしい影へ戻っていった。