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影の様子に、彼は左手を胸元へ添えながら、大きく息継ぎをした。囁きが続くにつれて大きく映っていた影は、ざわめきながら彼と等身大程になり色濃くなっていく。そして、彼の胸元の手は灯されている明かりのような橙色ではなく、青白い光を放ち始めたころ、ざわめいていた影がひたりと止まった。次のひととき、離れて見ていたヒスイ達は無意識にその影に恐れを抱いた。それは、確かに笑ったのだ。目も鼻も口も無い、黒色に塗り潰されている表情など持ち合わせない筈のその影が、確かに笑みを溢し笑ったのだ。しかしそのひとときを思議する間は、彼女達に与えられなかった。その恐れの元へ、影の主であるシアが飛び掛かるように向かって行ったのだ。左手の青白い光を握り締め、彼は大きく息を吸い込んだ。だらりと項垂れそうな影の喉元を、光りを放つ左手で押さえ込み壁へ叩き付け、口付けるかの様に息を吹き込んだ。ヒスイは気付いた、その頃にはもう影は彼と同じ動きをしていないことを。そして彼が息を吹き込み終える頃、冷たい汗が書物へ落ち筆を持つ手は湿っていること、周りの魔法使いの中に気を失い倒れている者が居る事に。



「今のうちに倒れている方を、別の場所へ運んであげて。ここは少し、冷えるので。私は、ここを離れられないから」



意識のある魔法使い達も、手足の震えている者ばかりで動ける者は少なかった。部屋の外に居た者に手を借り肩を借り、背負われ引きずられながら彼等は部屋から出て行った。彼女がシアの方へ視線を戻すと、彼と彼の影の二人は、互いに睨み合うように対峙していた。彼が対峙するその影は、先ほどまでの薄っぺらい影らしさや、先日の様な泥のような物体では無く、彼の姿形を黒く塗り潰されているような者に成っていた。ヒスイは一人その場に残り、全てを見渡し耳を澄ませた。そして目を凝らすと、シアが影に対して何かを言っているようだったが、声は聴こえずに音も響いて来ない。彼女はただただ、今見えているものを綴り始めた。腰を下ろし彼等を見つめて綴り、呼吸の度に混じり気のない澄みきった気持ちを感じながら。



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