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「それでは法院の頂として、医師であるそなた等に血については託すぞ。ヒスイ、身体に疲労はあるか。これから我は、あの魔法にまた試みる。可能であれば、直に見せておきたい」
「もちろん見ますよ。私が綴らないと、『夜』が日の目を見られません」
医師達が法院を後にすると、入れ替わるように魔法使い達が訪れた。そして彼等は、シア達の前まで来ると何も言わずに深々と頭を下げたまま、二人の前に立ち尽くした。
「先日は私達の町で、あの様に無礼な愚行の数々を謝りたい。恥ずべき事をした」
「ああ、構わない。夜更けにあのような場を作らせて、こちらこそ申し訳無い。そしてその折に見たいくつかの魔法、先代である我の爺様が流布した物が、生かされていた。自らの事柄のように、幸だった。我はこれから、あの魔法に試みる。見物も良し、ここにあるあらゆる魔法の源に、触れるも良し。今宵を、良い機にしてもらいたい。ゆるりとされよ」
そして彼はヒスイに声を掛けると、上着を脱ぎ大きく筒の様な照明を手に取り、奥の部屋へ入った。それに続いたは彼女だけではなく、部屋の入り口付近には多くの魔法使い達が集まった。シアは部屋の照明は灯さずに、手に持つ灯りを頼りに階段を降りて行った。そして中央よりも少し壁寄りに照明を置くと、その灯りを背に壁に映る自らの影と対峙した。音が深々とする中、シアはいつもの様に腕を伸ばし指を慣らし深く息を吐いたあと、瞼を閉じて大きく息を吸い込んだ。そして瞼を薄らと開き、大きく吸い込んだ息を滴らせる様に囁きとして零し始めしばらくすると、灯りにより大きく映し出された影が、ざわめく様に滲み始めた。