6
扉の閉まる大きな音に、その方を見た彼等の目はシアを捉えたが、彼の姿を知る者が少ない事もあり、殆どの医者が直ぐにまた血を囲んだ。
「何を論じておる」
また沸々と始めた喧騒を感じながら、人だかるその近くまで歩むと、卓上にある血を音を大きく立てるように氷漬けにして静まらせ、シアは呆れるように言った。そしてヒスイの書き留めた物を流し見て、医者の中から数人の意見を聞いた。
「知らなければ、知れば良いこと。そなたらは知らない事すら、知らなかったのだ。しかし今は、自らが無知な事を知ったのであろう。羞恥に劣等、虚偽に罵倒、身に沁みて知ったはず。それ以上、自らの時を汚す必要もあるまい。我はそなた等に、頼ることを求めておるのだ」
彼の言葉に皆は静まり、暖炉の炎が薪を燃やす音が聞こえる室内に、扉を開く音が飛び込んだ。響いた扉の音に続いて、一歩また一歩と音が床を響かせシアに向かって伝っていった。
「おかえりなさい。おかえりなさい。お待ちしておりました」
飛び付くように彼に抱き着き、彼に抱き締められたのはセイレンだった。皆の目はもちろん、ヒスイはそれを直ぐ隣で見せつけられた。
「ああ、セイ。良かった。顔を見る事が出来て嬉しい。しかし今宵はこれから、試したい事柄に手を離せない。暇を饗されてしまうが、良いか」
「いいえ、今宵はもう帰ります。明日も隣りの街へ行事があるの。今も行事からの帰り道に、無理をお願いしたの。どうしても会いたくて。
会えて嬉しい。ああ、外に待たせているから、もう行かなければ」
彼女はそう言うと、もう一度顔をうずめるように彼へ強く抱きついた。そして顔を上げ少し離れたあと、隣に居たヒスイに少し頭を下げると、次に皆へ頭を下げた。皆に見送られながら彼女が出て行くと、静けさに温もりを感じるような部屋に扉の閉まる音が響き渡った。




