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「この度は、誠に申し訳なかった。以後、一層気を張ろう。そしていくつか、頼みがあるのだが」
シアは白王にいくつかを申し出た後、帰って来ていることをセイレンへ伝えて欲しいと頼んだ。そして不慣れな遠征に疲労が積もる彼は、夜の濃い間に城を後にした。
「医療との連携を、強めるということなのか。あのような者が居ることは、素晴らしく好ましいこと。全く頼もしい限りだ」
白王たちは帰って行く彼を見ながらそのように話し、直ぐに彼の申し出に応えようと、明朝から動けるように従者や城内の魔法使いたちは話し合った。それからしばらくして、陽が光を広げながら朝を描き始め、何物の足跡の無い真っ白な雪を踏みしめる様に、静寂に音や匂いを足し始める働きを感じながら、シアは静寂の気を引きそれに浸りと眠りについた。音が音を起こしまた起こされ、混ざり合うそれぞれの音が活気になり始めた頃、その音の中にまた大きな音の一つとして、セイレンも目を覚ました。彼が帰っている事を耳にした彼女はその夜へ迎えるよう、王女としての行事を済ませようと、早々に支度をした。そして彼女が他の街へ向かい城下町を出て程なく、ほんのりと残る疲れの余韻に身体を伸ばしながら、ヒスイが身支度を整えていた。彼女が法院へ顔を出す頃には、城からの使者や医者に魔法使い達と、そしてシアが頼んだらしい獣の血が運ばれて来ていた。既に血の塊になりつつある血生臭いそれを見て、彼女はこれを元に血の研究を始めるように指示をした。それはこれまでの常識に照らし合わせてからの作業になる筈が、血に関する知識を持ち得る医者が多くはない事を露呈する結果に至ってしまった。知識の共有に諸説ある中からの知識の選別と、医療と魔法の知識から魔法を要いた治療の発展などへも繋がっていった。先にそうなる事など想像もつかない程に、それぞれがそれぞれの知識や実績に見栄や恥までも混ざり法院の中は、血を囲み喧騒で溢れたまま夜を迎えた。そしてそれ等を見ながら、発言や知識の類をヒスイが書き留めていると、シアが姿を見せた。