3
彼が、いつものように白くなる息を夜に掛けながら、月明かりに照らされるそれ等を眺めていると、明かりから漏れた陰に身を寄せ合う、男と女の影が薄らと見えた。
「夜の明かりに零れし陰に、陽向も寄せた夜陰の日影か」
呟いた彼は、それも今宵の夜が見せた景色の一つとまた空を見上げ、碧い点に赤や白の点を線を紡いで思い描いた。そして纏め上げられた書物を読み終えると、深く夜を吸い込み白い息を吐き出すと、その場を後にした。
彼が向かったのは雪の王国城内、白王の広間。王や城の者と、彼が顔を合わせる数少ない機会。彼が綴り彼女が紡ぎ、彼等が日々仕える魔法を記した書物は、白王の魔法師陣へ届けられそれは、雪の王国に住む民の学びとなり基礎となり技術となる。そして礎の術な枠を越え応用に発展、研究に探究をしようとする者が訪れ集う白雪の法院。彼はそれ等の者を統べ率い立つ法院の長であり、雪の王国では王族とこの法院の二つが大きな力として形作られている。
「シア殿、久しく食事を共にしておらん。近々晩餐へは、来てもらえぬか?」
「申し訳ない。我はそういう場が好まないのだ。ただ、そのような声を掛けられるのは、とても嬉しい。感謝している」
そう言うと彼は少し頭を下げ、王達に背を向けた。そして、朝靄が漂う夜明ける前の外へ、足早に城を出ようとしたその時、急ぎ駆け入ろうとした女性と鉢合わせた。
「セイレン!お前はまたこのような時まで、外へ出ておったのか!」
彼女を見つけた王は声を荒げたが、それを他所に二人はひととき互いに目を合わせた。しかしそれも束の間に、空を見た彼は彼女とそれを叱る声を置き去りに去って行った。視線が逸れ行くその赤み掛かる瞳と、遠くなる姿を碧み掛かる瞳は追い続け、喧騒のみならず外の音を掻き消した彼女の耳は、自らの鼓動の音に呼吸を思い出した。
「あのお方は、だれ?」