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膝を着く音が響く景色を、抜け殻の様に見ているヒスイは、目を逸らす事すらも出来ないでいた。音の無くなるその景色に、彼女とは別の方からそれ等を見ていたリアリの声が、その景色に足された。
「幼稚だわ。まるで幼子の約束の様。誓いなど、折れると言っているようなもの。そんなもの、縛られるのは貴方だけよシア様」
「その様な物なのかも、知れぬな。しかし、折られればまた立てれば良い。幾度と、我は誓いを立てよう」
付いていた膝を立て、立ち上がろうとしたシアだったがまた床へ手を付いた。その様子を見ていられなくなり、ヒスイが肩を貸しに駆け寄ると、またリアリは口を開いた。
「貴方は、それで良くって?」
「勿論だ」と、床へ項垂れるようにしながらも答えた彼は気付かなかったが、リアリの視線が通じていたのは駆け寄ったヒスイの方だった。その景色の中で、目が合った二人にしか分からないやり取りだったが、目を逸す事無く居るヒスイに、彼女はまた嘲笑うように背を向け足音は遠くなって行った。
「セイ。我はこれから、この街から離れる。帰りを待って居てくれ」
セイレンは彼を見つめたままに、「はい」と返事をした。そして彼はヒスイに肩を借りながら、白王へ頭を少し下げて城を後にすると朝までに近くの町へ辿り着くために、彼等は直ぐに法院を出た。雪車の中で、ヒスイは彼へ申し訳無さげに話を切り出した。
「セイレン様のお噂を、黙っていて申し訳ないです」
「いいや、構わない。そなたの、謝ることでは無い。我が忘れていただけだ。夜陰の日影というものを」