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彼女はそれに頷いた。彼は微笑んだ後に大きく、しかしとても静かに息を吸い込み、目を閉じて左手を胸元へ添えながら囁き始めた。二人を中心に囲う様に見る彼等のさらに外から、ヒスイはそれらを眺めるように見つめていた。彼の囁きに連れて重苦しくじめりとするような広間で、彼女が眺めているそれらの景色は、暗闇にある小さな小窓の光のように見えていた。そしてその景色の中心で、囁くシアの左手がほありと光を灯し始めると、彼は薄らと瞼を開いて呟いた。
【弛るむじ紛れむ誓種
宿り身根は縛ろう誓へ
折破足れば種を割ろう
出芽苗間なく華と成る
愛しく愛しき時へ凍て
死に代の時を伴に磔へ】
「セイレン、我はそなたが恋しい。好いている。そなたに、好かれていたい。紛れの無い思いだ」
「私も、シア様を好いて居ります。貴方だけを想って過ごしたい。そのように想われることにとても、とても幸を感じます。この想いに偽りはありません」
「それを偽る事柄が起これば、後は我に触れる事は叶わなくなる。触れれば我が、死に値するだろう」
「そんな事は、起こりません。起こさないわ。ですから、お願いします。早く私を、貴方に縛り付けて」
シアはセイレンをしばらく見つめた後、灯る左手を彼女の胸元へ当てた。灯っていたものが染み込むように消えて行き、彼は懐から針を出し左手の親指を刺した。そして溢れた血を紅の様に自らの唇に刺すと、右手を彼女の頬へ添えて、唇へそっと口付けた。息を飲む様に静まり返る辺りを他所に、口付けたその時彼の心臓は張り裂けるかのように大きく鼓動した。その衝撃に崩れ落ちるように、彼女の前に彼は膝を付き、彼女はシアの仕草や表情に見惚れたまま立ち尽くしていた。




