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夜が数冊積み重なる頃、纏められたそれ等が法院内で公にされると、シアと共に魔法使い達は目を通した。シアが彼女と解釈について打ち合わせている間、魔法使い達は顔を見合わせた。恐れを懐き不安な面持ちをする者や、未知に興味を懐き笑みを浮かべる者等、『夜』への反応は様々だった。
これまでの主軸色の魔法である赤に青や白、この色以外の色を想像する事柄が、それには記されていた。陰と陽なる事柄を主軸に置き、これまで陽については白に分類され記されていることがあったが、陰については無かった。
それは陰について進んで知ろうとする者が少なかった事や、それについて知ろうとする事自体は罪には問われないが、これまで知ろうとした者が罪を犯したり、狂い自害していく様に、それぞれの技量足らずや、踏み込めば飲み込まれるような恐怖に皆が避け、見て見ぬふりをするよう拒んで来たからだった。それにより、白の魔法についても曖昧な記述が多く、見えないよう真っ白い布で覆われ、誤魔化されているような現状にあった。その誤魔化しに気付き始めたのも、先代の最期の頃だった。いや、どの魔法使いもそれには気付いていたが、目の前にある誤魔化しの布からも目を逸らしていた。
恐らくこれまでの多くの魔法使いが、幼子を汚いものや危険なものから遠ざける為に、誤魔化し覆い隠す事を選び、覆ったその布を取り外す事に戸惑いを感じ、背を向けた。それは、偽りに偽りを重ね、さらにその偽りが真実として偽りを振り撒く時を重ねることになる。しかし布を払うということは、そのを布を真実として疑わずに過ごした自らを含める誰かの時を、全否定する事に繋がる恐れがある。その恐れに怯え慄き、そして背を向けたのだ。しかし今、その偽りから溢れる疑いや興味に、誤魔化す必要は無くなっていた。
「夜は美しい」と残して逝った法院の先代は、最期を迎える間際、夜に法院を閉ざし一人で誤魔化しの布を払おうとしていたのだろう。そして今、シアイはその布へ手を掛け、駆けながら引き剥がして行く。陽の中に在る、彼女との願いを叶えようと。