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「久しくなってすまないな、セイ。もうしばらく時を使いそうだ」
「こうしてシア様に会えれば、私は嬉しいのですよ?私の願いは、こうして寄り添えることなのです。はい、この子にもお願いします!」
「素晴らしい魔法だな。我には、想像にも無い。我も、日向の川を見たいのだ。その隣には、セイに居てもらいたい」
飛び跳ねる雪兎へシアはまた魔法を掛けながら、セイレンの様子に安堵した。温かい物を飲みながら寄り添い少し話した後、彼女を城まで送る中で、その横顔からこちらを向く様子に、彼は夢中に見つめていた。城へ戻ったセイレンは、窓から彼の後ろ姿を見つめた後、夜空を見上げしばらく眺めた。
「お探しの事柄は、見つかりましたか?」
「いいや、見つからなかった。ここにある、全ての書物に目を通したがな」
書物を閉じて一息ついた彼へ、ヒスイが問いかけた。手に持っている書物を眺めながら、掲げたりぶらりとさせてみたり匂いを嗅いでみたりとしながら、シアはそれを彼女へ渡した。
「探しているものは、見つからなかった。しかし、無いことを知れた。
誰もが、知らないのだ。無いならば、作るまでだ。誰も知らないのであれば、我が知れば良い事だ」
その彼の表情や言葉、見据えている物を感じた彼女は、目の前で手の届きそうな場所に居るはずのシアを、見上げるような、見守るような、そんな距離に自分が居ることを痛感した。そして、引き離されまいと引き寄せようと、彼女は言った。
「私にも…。いえ、それならば、記して下さい。私が、それを纏めます」
「ああ、任せるぞ」
それから数日、彼は無字の物へ殴り書き始めた。想像に考察から仮説、それらの殴り書かれた物を見たヒスイは、胸が痛くなる程にシアを思った。そして、纏め始めた彼女が添えた題は『夜』だった。




