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その口付けに、シアは彼女へ振り向いた。セイレンの頬に触れ彼女の額に額を重ね、そして口付けた。彼女の頬に触れた彼の手はとても温もりに溢れ、雪の窓から見える星降る夜の側で、彼は彼女を抱きしめた。暫くしてセイレンを見つめていたシアが、不意に身体を起こした。
「どこかで、水の流れる音がする」
「水?それは恐らく、雪解けの川が流れる音ですね。とても綺麗な川ですよ。日向に川の側を散歩すると、気持ち良いし。ねえシア様、夜はこんなにも素敵だけれど、お昼間もセイはとても好きなのです。お散歩、御一緒にしませんか?」
「陽の下か。···セイ、我に少し時をくれないか?」
不思議な面持ちに見つめるセイレンを城へ送り届けた後、彼は数年来に朝を迎えていた。法院の最上層にある頂の間で、白と黒な陽と陰の境を、シアは陰の中から眺めていた。そして右の袖を捲り、徐に陽に腕を差し出した。そうすると、陽に触れられた彼の白い腕は赤らみ、痛みに苦しんだ彼は陰に腕を引き戻し、それを見ると赤らみで爛れていた。
「やはり、受け入れられぬか」
その日から、彼の夜は変わった。これまでシアが夜に行なっていた魔法の類は、夜に訪れるようになった魔法使い等に任せるようになり、彼は陽の下へ出られるような魔法の類を、探すようになった。魔法使い等は個々では事足りない程の、彼が一人で携わっていた様々な事象に対して、その人数で補った。そしてシアは、また頂の間に居た。屋根裏部屋の様なそこは剥き出しの梁や柱に、本棚と机に椅子、床には古ぼけた敷物、そして窓と言うには烏滸がましい穴に近いような、その大きな窓の前に椅子を置き、それに座り背もたれヘ身体を許し過ごしていた。射し込む月明かりを浴びながら夜空を覗き、また暫く目を閉じて想像を膨らませ、それに穴を開けるように目を開き、流れ出す様に息をしていた。




