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またの夜、皆が帰り静かな法院でヒスイが一人書物へ目を通していると、扉の開く音がした。その音へ穏やかにその方を見ようとしたその間、彼女が聞き慣れている扉を開ける音とは違う音だった。それに気付いて、自然とその意識は引き締まった。そして扉からは、セイレンがそっと覗き込んだ。
「···入っても?」
「ああ、セイレン様!失礼を致しました。どうぞ、こちらで温まって。お久しぶりに会えて、嬉しいです」
覗き込む彼女と目が合って数秒、ヒスイは息を飲み沈黙を広がらせてしまったが、セイレンがそれを取り払った。彼女の姿を久々に見たヒスイは、以前と変わらない彼女の無事な姿に多々の恥じる思いを押し退け、言葉にそれが滲むものの、心の和らぎを感じていた。二人が親しげに団欒しているそこへ、シアが扉を開いて現れた。
「シア様。お久しぶりです。今宵も暫し、お邪魔致しますね」
「ああ。構わない」
扉を開いた先にセイレンが居たそれに、彼はとても安堵した。そしてシアが温もりに触れたと感じるほどにセイレンが見つめる彼は、今まで見せたことのない程に微笑みが零れていた。
「では、私はそろそろ帰りますね。シア様、纏めたものは机にありますからよろしくお願い致しますね」
二人に手を振り、ヒスイは扉を閉じて帰って行った。不安を忘れるほどの安心に、この時彼女は満たされていた。シアがいつものように、上着を脱ぎ掛けようとしたそれを、セイレンが手に取り彼はそれを彼女に任せた。
「シア様、今宵はいつもより一つだけ、セイの願いが多いのです。聞いて頂けますか?」
「いつも足を運ばさせている、勿論我で聞けるものならば構わない。我も、今宵はそなたに礼をしたい。後ほど、付いてきてもらいたい場所がある。良いか?」
それに対して彼女は、「はい」と頷いた。




