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消えたじゃがいも

「土臭い」と女に言われ自分の体の匂いが気になった。自分で身体の臭いをかいでみる。別に臭くはない。

 そりゃ毎日毎日、畑仕事をしているけれども、キチンと馬車の旅の時だって水洗魔法できちんと身体は洗っていたし、土臭いなんて今まで一度も言われたことがなかった。


「なぁ、おれって土臭い?」


 女に背負い投げをされ、まだ倒れたままのちゃら男に問いかける。


「いえ、全然土臭くないっす。」


 女に投げられたのが懲りたのだろう、先程とは違い敬語だ。むしろおれにおびえているような雰囲気さえある。怖いのはおれではない、女だ。そこんところ間違えないでほしいものだ、ちゃら男よ。


 女が言った「土臭い」という言葉はきっとけなす言葉ではないのだろう。むしろ、「土の臭いがするほど畑仕事が好きなのね。素敵っ!」という意味が暗に込められた、畑仕事が大好きなおれを褒める言葉だと思っておこう。ただ臭いから言われたのではない。


 きっとそうだ、おれは信じているぞ。女。



 日も暮れてきたので、宿に帰るか。


「なぁ、ここってどのあたりだ?」


 アンナさんから貰った地図をちゃら男に渡す。しばらく地図を見た後、「この辺っすね。」とちゃら男が現在地を指示してくれた。なんだちゃら男、意外といいやつじゃないか。

 今、自分がどこにいるかも分かったのでこれなら、地図を頼りに宿屋まで帰れそうだ。

 倒れているちゃら男をそのままに宿へと足を進めた。


 地図を頼りに人しか通れない細い道を歩いて行くと、途中に古びた本屋を見つけた。魔法について詳しく書かれている本があるかもしれないと思い、中に入ることにした。

 店内は薄暗く営業しているのかどうかすら怪しい。近くにあった本を手に取って見ると、ほこりをかぶっていたせいで手形がくっきりと本に残った。


 お客さんは俺以外いないみたいだし、ほこりをかぶった本の状態をみるとほとんどお客さんが入っていないのだろう。よく店が潰れないものだ。

 店の奥ではおじいさんがうとうとと椅子に座り居眠りをしている。おそらく、この店の店主だろう。

 その前を通り過ぎて、目当ての魔法のことについて書かれている本が置いてあるコーナーを探す。


 あった。


 本棚には様々な種類の本が置かれている。


「魔物でもできる魔法の扱い方 基礎編」

「クイックマスター4 風魔法編」

「空間魔法指南書」

「火魔法の最前線」

「雷なんて怖くない」

「初級魔法基本書」


 目についたのはこの6冊だ。風の魔法が使えなかったので「クイックマスター4」を買うべきか。それとも女が使っていた便利そうな空間魔法の本を買うべきか。いや、他の本も捨て難い。


 さんざん迷ったあげく、「空間魔法指南書」に決めた。他の本と比べて本の厚さが薄かったからだ。 

 他の5冊の本は少なくとも100頁以上はあるのに、この「空間魔法指南書」はわずか10頁ほどしかない。ページ数が少ないということは、他に比べて覚えるのが簡単な魔法なのだろう。そう思い購入することに決めた。

 おじいさんを起こし代金を払うと、寄り道せずに宿へと戻った。






 宿の扉を開けると、みんなまだお酒を飲んでいた。一人を除いて皆ほんのりと顔が赤くなっている。

 その一人は青さを通り越し、真っ白な顔をしてジョッキを片手に机に顔をのせている。

 床には散乱した酒樽。また数が増えている。どれくらいのお酒を飲むんだこの人達は?


「あぁ、バールくんおかえり。」


「ただいま。」


「おお、バール帰ったかぇ?さぁ飲むよ!!」


 アンナさんがジョッキを進めてくる。これだけの酒を飲んでいるのに三人とも、まだまだ元気だ。酒豪と呼ぶにふさわしいかもしれない。

 断るのも悪いので、ジョッキを受け取り飲み干す、乾いた喉が潤っていく、いいのど越しだ。


「ぷはぁーっ!」


「あら、あんたいい飲みっぷりじゃないかえ!気にいったよ。もっと飲みな!」


 笑顔で空になったジョッキにおかわりを注いでくれた。それを飲み干す。すると、すぐさまおかわりがつがれた、なんとなく副村長の気持ちが分かる気がしてきた。


「まぁまぁ、アンナさん。バールくんは明日、魔王様に会うことになるから、ほどほどにね。」


 オデットさんがフォローをしてくれる。流石だ。


「あの人はちょっと酒くさいくらいで会いに行った方が喜ぶと思うけどねぇ。」


「その方が気に入られるかもしれんが、村を代表して魔王様に会うんだ。失礼がない方がいいだろう。それに魔王様は許してくれるが、あの固物メガネが許さないだろう。」


 バーボンさんがおれの目の前に料理が盛りつけられたプレートを置いてくれた。肉を中心に盛り付けられている。というかほとんど肉だ。食えということだろう。歩き疲れてお腹はぺこぺこだありがたくいただこう。


「確かにあの子は許さないだろうねぇ。あんな固物だからいい歳して旦那の貰い手もないんだろうねぇ。」


 ニヤニヤとアンナさんがしている。話を聞いているとこの三人、魔王と何か関わりがあるようだが、どんな関係なのだろうか。昔の同僚・・・城で働いていたとか?

 そんなことを考えながら肉を口に運ぶ。


「うまっ!!」


「ここの料理は絶品だろう!これは全部バーボンが作っているんだよ。僕もこの料理には心を奪われたよ!!」


 バーボンさんを見ると満足そうな顔をして頷いている。

 しかし、この肉どこかで食べたような気がする・・。このあふれ出る肉汁・・・。


「・・・・・ボアバイソン?」


「バール、お前は肉の味が分かるのか!!素晴らしい舌だ!!」


 肉の種類が分かったことが相当嬉しかったのか、バーボンさんは料理のことについて熱く語りだした。

 この人は好きなことの話題になると話が止まらなくなるタイプの人だろう。


 こわもてで無口な人だと思っていたのに・・。


 好きなものを話すときは穏やかな顔をする。人が変わったみたいだ。


 長い長いバーボンさんの料理談義を聞き終わると、オデットさんにお風呂に入って、そろそろ休んだら?

 と言われたのでその通りにする。

 

 彼らの宴会はこの調子だと夜更け過ぎまで続くだろう。




 風呂に入っている時に三人の関係を詳しく聞き忘れたことを思い出した。

 この街にはまだ滞在するし、聞くチャンスはいくらでもあるだろう。


 ちなみに身体はいつもより念入りに洗った。






 風呂からあがり、部屋に戻るとさっそく買ってきた魔導書を取りだす。「空間魔法指南書」、作者等は書かれていない。

 ページを開くとそこにはこう書かれてあった。


「魔法を扱う上で大切なのは想像力である。」


 本と言えばもっとこう、びっちり文字が敷き詰められているというのがおれの常識だったが、この本には一ページにこの文章だけしか書かれていない。魔導書ってこんな感じなんかな。


 次のページをめくる


「空間魔法もまた同じである。」


 次もこれだけしか書かれていない。ページをめくる。


「この本の通りにすれば読者の君も空間魔法を使えるようになるはずだ!」


 粗悪品を買ってしまったのかもしれない。そんな考えが頭をよぎった。


 これはやはり普通の本とは違う気がする。古るぼけた本屋で買ったものだが、本の厚さだけでなく、中身もこんな薄いようなら他の本を選んでおけば良かったと少し後悔をした。

 店主のおじいさんもこんな本あったかぇ?という顔をしておれに格安で売ってくれたので、もしかしたらおじいさんが寝ているうちに近所の悪ガキがいたずらで本棚に忍び込ませたものかもしれない。


 しかし、お金を払って買ったものなのでとりあえず、読み進めておくことにしよう。


「まずは扱いたい空間の広さを頭の中にイメージしてみよう。イメージしたら次に進んでね。」


 だんだんと説明文が砕けていってる気がする。

 扱いたい空間の広さか。荷物を収納しておくのに必要な広さだから、この部屋の大きさぐらいあれば十分か、6畳ほどの広さの正方形の空間をイメージする。


「せっかくだから、今考えた空間よりももっと広い空間をイメージしてみようか!レッツ、チャレンジ!!」


 かたっ苦しい本は苦手だが、軽い感じで書かれている本もなんだかなぁ。信憑性が薄れていくのを感じる。


 本の指示通り、先程よりも大きな空間をイメージする。この部屋よりも大きい空間。家一つがまるまる収まるような空間ぐらいか。

 いや、この本のことだ、更に広い空間をイメージしろとか次のページには書かれているかもしれない。もっと大きな空間をイメージしよう。

 360度地平線しか見えないような場所をイメージする。空は突き抜けるように高い。そこは一つの空間であると考える。

 イメージはまとまった。


「手をこの本にかざし、扱いたい空間をイメージしながらページをめくれ。」


 手をかざしページをめくる。次のページには見たこともないような文字がびっちりと書き込まれていた。

 なんだこの文字は?と考えていると、ページの一文字一文字が光輝き、本から順番に飛び出してくる。

 飛び出してきた文字はおれのかざした手へと吸い込まれていった。


「なんだったんだ今のは・・・。」


 本を見るとページが真っ白になっている。次のページをめくる。なにも書かれていない。真っ白だ。本を初めから読み返してみるとすべてのページが白紙になっていた。


 いたずらにしては度が過ぎてるな・・。

 駄目もとで何もない空間に手をかざしてみる。


「空間魔法。」


 そう唱えると女が使ったように黒い穴が出現した。空間魔法が使えるようになっている。

 魔導書すげぇ、本屋のじーさんありがとう。疑ってごめん!!


 とりあえず穴の中に手を突っ込んでみる。やみくもに探ってみるが何も感触はない。

 あたりまえか、何も入れてないし。

 では、何か入れてみることにしよう。宿の備品を入れるのは申し訳ないのでとりあえず買ったじゃがいもの苗を入れてみることにした。

 穴の中にじゃがいもが吸い込まれていく。


 そして入れたばかりのじゃがいもを取りだそうと穴の中に再び手を入れる。


「・・・・・あれっ?」


 手の届く範囲で探ってみたがじゃがいもは見つからない。いったいどこにあるのだろう。


 頭の中にある考えが浮かぶ。


 この穴の中が想像した空間の広さだとするならば・・・。


 見わたす限り地平線の空間に、じゃがいもが転がっているのか・・・。

 そりゃ、手を突っ込んでも取りだせないわけだ、空間の中に入って自分の足で探す必要があるかもしれない。足で探すと言っても相当な大きさの空間をイメージしたから一日で見つかるかどうか分からない。


 いや、中に入るといってもどうなっているか分からないし、出られなくなるかもしれない。危険だ。


 そもそも空間魔法のことをよく理解せずに覚えてしまった。

 女が使っているのを見て、荷物を出し入れできる便利なものだ!と決めつけて覚えようと思ってしまったのだ。

 女が食べ終わったゴミを入れていたように、いらないものを入れるだけで取りだすことはできないのかもしれない。


 とりあえず、よく分からない魔法なので使うのは控えておこう。

 じゃがいものことは残念だけれども、とりあえず今は忘れておく。


 明日はいよいよ、大根を魔王に献上する日なのだから。

 魔王の驚く顔を想像しながら眠りについた。

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