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王都ゴルトキア

 魔物の襲撃があった後も、王都ゴルトキアに向けて馬車は走り続けた。

 おれは魔法の練習を引き続きこなし、魔法に飽きたら、野菜を愛で、野菜を愛でるのに飽きたら魔法の練習をするというサイクルを王都に着くまで繰り返した。


 練習したおかげで魔物に魔法を放った時のようにすぐさま炎球を形成し、相手に放つことのできるレベルくらいにはなった。

 他にも火ではなく水の魔力を形成することもできた。これも火の魔法と同じように一点に水の魔力を集中させ、相手にぶつける。それだけだ。


 風の魔法も練習してみたが、これはなかなかイメージが上手くいかず、扱えるレベルには至らなかった。

 オデットさんは魔法が苦手なので、初級火魔法以外の魔法を扱いたければ他の人にアドバイスをもらう必要があるかもしれない。

 もっとも村にはそんな魔法を使える人はいないので教えを請うなら王都か。


 道中では魔物に襲われたあとも、何度か再び魔物に襲われることになった。オデットさん曰く、おれ達が襲われていた魔物、名前をガルムというらしい。そのガルムに何度も襲われることはなかなかないらしい。

 そもそも魔物に会うこと自体がめずらしいからな。


殴られて、錐もみ状に宙を舞うガルムを見ながら「誰か魔物を引きつける体質の人でもいるのかもしれないね。」と、言ってオデットさんは笑っていた。


 副村長はというと魔物が出るたびに叫び、腰を抜かし、魔物がいなくなると何事もなかったかのように振る舞い、出発していた。あいかわらず、立ち直りが早い。


 魔物を見るたびに腰を抜かす、副村長はただの小心者のように見えるが、その危機察知能力はすごいものだと思う。魔物がいる気配を感じると叫びすぐに助けを求める。


 そのおかげで魔物の不意打ちを防ぐ役割をしてくれている。実際、この人が着いてきているのは馬車をひくためではなく、このためだろう。


 おれはというと魔物が出るたびに外に出て、魔法でオデットさんの援護をしていた。

 初めは危険にさらしたくないから荷台にいろと言ったオデットさんを、魔物に慣れておくことでおれもゆくゆくは村を守れるようになりたいから、という理由で説き伏せ、前に出すぎないことを条件に外に出ることを許された。


 気を引き締めたオデットさんが魔物に対して無双していたので、おれに身の危険が及ぶこともなく、放った魔法も正直、援護になっていたかどうかは分からない。

 魔物が出てきてはちぎっては投げちぎっては投げの大活躍だった。






 そんなこんなで3日間、馬車に揺られていると目的地、王都ゴルトキアが見えてきた。

 街は20メートルほどの高い城壁に囲まれ、これならばそう簡単には敵の侵入を許さないだろう。城壁には巨大な門があり、門の前にはフルプレートの鎧を着て、腰には剣をさした魔王軍の人が何人か立っている。

 そこを自分たちと同じような荷馬車を引いた人達が頻繁に出入りをしていた。


 本当は王都に入るためには身分の照会が必要らしいのだが、王都は祭事中ということで平常時より、人の入りが多く、混雑を避けるために今は廃止しているらしい。

 しかし、怪しいと思われた人は、身分照会を行われるらしい。いまも一人、王都に入ろうとした商人が兵士に連れられてどこかへ行ってしまった。


 おれ達はそんなこともなく無事に王都の中へ入ることができた。


「おぉ・・・」


 王都のでかさに感嘆の声が漏れてしまう。


 まず目に入ってきたのは舗装された石畳の大きな道だ。この国のメインストリートとも言えるだろう。キチンと平らな道になっており、村のでこぼこした道とは大違いだ。奥に進めば進むほど坂道となっており、この道の先にはお城がある。城の頂上からならこの巨大な街を一望できるいい景色を見ることができるだろう。魔王が住んでいる場所なのだろう。


 大通りの両端には商店が所せましと並んでおり、道に露店を開いて商いを行っている者までいる。野菜や果物を置いてある店、武器や防具、日用雑貨、本を置いてあるお店、そして見たことがないような物まで様々な物が目に飛び込んできて目が回ってくる。

 そしてその間を行きかう人の多さに一番驚いた。ここだけで村の人口の何倍、いや何十倍はいるんだ?


「ははっ、驚いているようだね、バールくん」

「村と全然違うので、そりゃ驚きますよ。人多すぎですよ。これだけの人の胃袋をまかなえる野菜はいったいどこから・・・・」

「ここは村のように自給自足の生活じゃないからね。近くにある町や村でできた食料や装飾品をここに持ってきて売っているのさ。人が多いのはいつものことだけど、お祭りだからいつもより多いね!」


 なるほど、周辺で作られたものをここに持ってきて売るわけか、だからこんなにも商店が立ち並んでいるのか。ここにくれば食料品から日用品まで何でもそろう。便利だし、そりゃ人が集まってくるわけだ。

 どんなものがあるのか歩いてこの目で確かめたい。

 そんな気持ちを察したのだろう、


「初めて王都に来てわくわくする気持ちも分かるが、もう少し待っていてくれ。街を散策するのは今日の宿を取ってからにしよう。」

「分かりました!」


 おれは元気よく答えた。


 馬車は大通りから横道に入り、しばらく進んでいくと閑静な場所に出た。道のところどころに馬車が止めてあり、宿を表す看板のある店が増えてきた。どうやら宿泊街に着いたようだ。

 宿屋が立ち並ぶ中、馬車を近くに止めて、その中の一軒に入っていく。中には受け付け用のカウンターがあり、その近くには5、6人は椅子を並べて食卓を囲める大きなテーブルがあった。


「いらっしゃい、宿泊かい?」


 そう言って、パラパラと帳簿をめくりながら迎え入れてくれたのは中年のおばさん。いかにもおしゃべりが好きそうなタイプの人だ。


「お久しぶりです。アンナさん!今年もお世話になりますよ!!」


 アンナさんと呼ばれる女性が顔を上げて、笑顔を見せる。


「ああ、オデットじゃないかい!!一年ぶりだねぇ。あんたーオデットが来たよー。」


 アンナさんが大声で叫ぶと、奥の方からのそのそと大男がやってきた。筋肉が盛り上がっており、どことなくオデットさんに近い雰囲気を感じる。

オデットさんは筋肉モリモリだが、優しい顔をしている。一方、この大男はこわもての顔で鍛え上げられた身体と顔が一致している。


「オデット、久しぶりだな。相変わらずの筋肉だ!」

「ははっ!バーボンこそナイスマッスルだ!」


 なんだこのあいさつはむさくるしい。やはりこの二人には似たもの同士なのだろう。


「今日は店じまいだな!かーさん!いつもの!」

「あいさね!もうやってるよ。」


 そう言って次々に宿泊客を追い出し、他の宿屋へと斡旋していくアンナさん。この宿の経営はこれで大丈夫なのかと心配になった。


 そもそもこの三人はどういう関係なのだろうか。オデットさんが来たことによって、この祭りのかき入れ時であろう時期に店を閉めてしまうぐらいなのだから、相当仲がいいのは分かるが。


「あんた、長旅で疲れただろう。部屋は二階の空いてる部屋を適当に使っていいよ。」


 そう言って鍵を鍵をぽいっと渡された。三人の勢いに負け、副村長と共に二階に上がっていく。


「あの三人ってどういう関係なんですか?」

「昔の仕事の同僚ぐらいということしか分からないなぁ・・・。ちなみに、ここには毎年泊っているよ。詳しい話を聞きたいんだけれどもいつも聞く前になぁ・・・。ハァ」


 そう言って副村長はため息をついた。心なしか顔色が悪いように思える。


「バールくんって何歳だっけ?」

「今年で18で歳ですね。」


 副村長は30代半ばくらいだ。細身の体以外特に特徴はない。存在感の薄さには定評がある。

 村長の息子であり、村の中では博識なので副村長という役職に就いている。

 そういえば、気が付いたら”副村長”とこの人のことを呼んでいて本名はまだ知らないな。村で名前を知らないのはこの人だけかもしれない。


「18か、18ならぎりぎり、か。いやあの人達にとっては子どもか・・?」


 副村長は何やらぶつぶつ呟いている。すると階下から声がかかった。


「なんだい!!副村長も来てるならちゃんと挨拶ぐらいしなさね。あたしゃ気がつかなかったよ。とっとと荷物おいて降りといで!飲むよ!!」


「ひゃいっ!!」と情けない返事を出し、副村長が階段近くの部屋に荷物を置き、慌ただしく下へと降りて行った。

 その横顔は先程よりも青みがかかっているように思えた。


 貸切なので自由に部屋を選べる。

 二階には8つの部屋があり、そのうちの階段から一番遠い部屋に決め、中に入った。一番遠い部屋にしたのはなんとなくだ。なんとなくその方がいい気がした。

 中にはベッドと机、椅子が一つずつ置いてある。どの家具も年季が入っているが、掃除が行き届いており、清潔感がある。

 ベットに荷物を置き、下に戻るともう酒盛りが始まっていた。顔のサイズ程もあるジョッキを手に持ち楽しそうに話しながら酒をあおっている。

 床にはいくつかの樽が転がっていた。もう中身は入っていないのか、それともこれから飲む分なのか、どちらにしろ恐ろしいので考えるのをやめた。


 アンナさんがこちらに気がつき声をかけてくれる。


「あんたがバール君かい、紹介が遅れたね。あたしゃこの宿を切り盛りしている。アンナだよ。そしてこっちが旦那の―――」

「バーボンだ。」


 そう言って、筋肉を少し膨張させてきた。この人もやはりオデットさんと同じ、筋トレ好きなのだろう。


「私たちは昔の職場の同僚でねぇ。今もこうしてオデットが王都にくるたびにこうして仲良くさしてもらってるのさ。それにしてもあんたすごいねぇ。若いのに魔王様に村を代表して捧げる名産品を作りだしたんだろ?この大根ほんとに美味しいよ。」


 テーブルには薄く切られ、塩で味付けされた大根が並べられていた。オデットさんがお土産にでも出したのだろう。


「ありがとうございます!美味しいと言われておれも頑張って作ったかいがありますよ。」

「ところであんたいける口かい?」


 アンナさんがでかいジョッキをぐいっと前に差してくる。飲めないわけじゃない。お酒をたしなむのはむしろ好きなほうだ。村ではオデットさんに誘われてたまに飲んでいた。

 でも今は街を探索したい気持ちの方が強い。どう断ろうかと悩んでいると、オデットさんから助け船が出た。


「アンナさん。バールくんは王都に初めて来たから、まずは街を見てみたいらしいよ。まだまだ時間はあるし、一緒に飲むのはそれからでもいいだろう。」

「そうかい。村から来たのならこの街をみてわくわくする気持ちも分かるからねぇ。楽しんどいで!」

「はい!色々と見ていきたいと思います。」


 ふと横に目をやると、アンナさんとバーボンさんに挟まれ、ジョッキを片手に青ざめた顔をしている副村長。きっとお酒が駄目なのだろう。顔色が悪くなっていたのはこのせいか。目が合い、助けを求める眼差しがおれに向けられる。

 助けて欲しそうだし、道案内役にでも連れて行こうかと思っていると


「バール、あんた王都は初めてだろ!この地図があれば道には迷わないだろうから。持ってお行き。」

「あ、ありがとうございます。」


 素直に地図を受け取った。これがあれば道案内は必要ないね。副村長さん、ごめんなさい。


「じゃあ、いってきますね。」


「いってらっしゃい」と一人を除いて暖かく見送られ宿を出た。


「さぁ、あたしたちは飲むよっ!あたしゃ副村長のちょっといいところが見てみたいね!!」

「ひぃ~~~」

「情けない声をあげるんじゃないよ!!」


 出ていくとそんな声が後ろから聞こえてきた。なにをどうやっていいところを見るのかは分からないが少し、あの人達とお酒を交えるのは怖いと思いその場を後にした。

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