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王都ゴルトキアへの道

誤字、脱字等あればご指摘お願いします。

手厳しい感想でもなんでもいただけたら嬉しいです。

 おれの大根が魔王に献上されることになってから7日が経った。この7日間、いつも以上に心血をそそぎ、大根の世話をしてきた。

 色、つや、肌の張りといい、どこに出しても恥ずかしくない一級品の大根が出来たと言えるだろう。

 できればこのまま、魔王様に献上することなく自分の手元に置いておきたいが、仕方ない。全国デビューの第一歩として、この子たちは魔王様の口に入れてもらい


「ぶたうんめぇえええええええええ」


 という、お褒めのお言葉をいただこう。


「やぁ、バールくん。準備はできたかい?」


 収穫を終え、一息ついていると、オデットさんが馬車をひきながらやってきた。一仕事終えたかのようなさわやかな汗と笑顔だ。

 オデットさんそれは馬に引かせる物ですよ。人が引くものではありません。


「ええ、最高のものが出来ました。」

「ほう、これは素晴らしい。きっと魔王様も喜ぶことだろう。さっそくだけど収穫したものを中にいれようか。」


 馬車の中をのぞくと、水や食料、夜営の道具など、王都に行くために必要な物は、すでに準備されていた。

 二人で空いているスペースに採れたて大根を積み上げていく。持ってきた馬車は商人が使うような少し大き目のサイズなので大根をすべて載せても大人が二人ほど横になれるスペースがあった。


「よし、全部積み終わったようだね。じゃあ運ぶから、バールくん乗ってくれ。」

「あの、オデットさん、この馬車を引く馬が見当たらないんですが・・・。」

「やだなぁ、僕がここまでこいつを引っ張ってきたんだから、村まで引いていくに決まっているじゃないか。」


 そう言って、はははと笑うオデットさん。やはり、村までもこの人が引いていくのか。

 素直に指示に従って、馬車に乗り込むと、勢いよく馬車が走り始めた。人間離れしたパワーだ。まぁ魔族なんだけどね。

 それでもこれほど力のある人はなかなかいないだろう。これも日々の筋トレのおかげなのだろう。毎日筋トレをしてもオデットさんほどの力を出せるようになる気はしない。


 そんなことを考えてる間に村にあっという間に着いた。村のみんなが総出で出迎えてくれる。村の人達、一人一人と言葉を交わしていった。みんなが暖かい言葉を送ってくれた。その中にはもちろんエリーの姿もあった。


「いよいよ、行くのね。」

「ああ。こんな盛大に見送ってくれるなんて英雄にでもなった気分だ。」

「英雄みたいなもんなんじゃない?村を代表していくわけだし。」


 英雄――か、そうだ。きっとこの村に次に帰ってくるときには英雄になっているはずだ。魔王様に大根を認められ、魔族界デビューの約束を取り付ける。まさに農業界の英雄だ。農業界の英雄におれはなる!!


「これ、持っていって。」


 少し顔を赤らめながら、エリーが手渡してくれたのはネックレスだった。小さな青い石が輝いている。


「御守りみたいなもんだから、いつも身につけておいてね。」

「ありがとう。大切にするよ。」


 おれはエリーからもらったネックレスを身に付けた。きらりと胸元で石が光る。ぴったりのサイズだ。寝てる間にでもサイズを測ったのだろうか。


「さぁ!!お別れもすましたようだし、そろそろ出発しようか!バールくんも乗りたまへ。」


 荷台からオデットさんが顔を出す。いつの間にか馬車の先頭には馬が備え付けられていた。これこそ馬車のあるべき姿だ。

 荷台に飛び乗りみんなに別れの挨拶を告げる。


「それじゃ、みんなーーーーいってきまーーーす!!!」


 ガタガタと荷台を揺らしながら馬車は走り始めた。





 ・・・・・・・・・・・・・



 今回旅をするのは三人。大根の作り手である、おれ。道中の護衛ということで腕っ節に自慢のあるオデットさん。そして馬車の引き手である副村長だ。

 王都までは馬車で約3日。出発してからまだ2時間しかたっていないものの、おれはもう馬車の旅に飽きがきていた。


「ああ、土が恋しい。畑が恋しい。」


 揺れる馬車の中、収穫した大根を優しくなでる。かれこれ一時間はなでている。が、それにも飽きてきた。ああ、畑をいじりたい。

 横に目をやるとオデットさんが筋トレをしている。この揺れの中よく腕立て伏せが出来るものだ。汗を流すオデットさんを眺めていると視線があった。


「なんだい、バールくん。もう馬車の旅に飽きてきたのなら筋トレでもするかい?」

「ええ、もちろん。」


 とはいったものの、筋トレが終わるとやることがない暇だ。暇すぎて死んでしまいそうだ。毎日毎日、畑仕事に精を出してきたせいでやることがない状態というものは落ち着かない。


「よし、筋トレが終わったならば魔法の練習でもするかい?なにかあった時に一人でも戦える人は多い方がいいからね。ただし、僕は魔法が得意じゃないから基本的なことしか教えられないけどね。」


 生活用の魔法ではなく、攻撃用の魔法ということだろう。オデットさんは村で攻撃魔法を使える数少ない一人だ。攻撃用の魔法は必要ないと思っていたが、確かに旅の間は何があるかは分からない。おれは暇つぶしも兼ねて覚えることにした。


「ぜひ、お願いします。」


 腕立てを終えたオデットさんがこちらを向く。ほどよく腕がパンプアップしている。


「いいかい、攻撃魔法とは基本的に集中することが大切だ。自分の魔力を一点に集中させて、そこへ魔力を送りこんでいく、そうすると...」


 オデットさんの手のひらに直径40センチほどの火の球が現れた。


「そしてあとはこれを放つ!ぬん!!」


 腕を大きく振りかぶり、ついさっき通り過ぎたばかりの大きな岩に向かって火の球をぶん投げた。ボン!という火の球のはじける音がし、ぶつかったと思われる部分は黒く焼け焦げていた。


「これが火の下級魔法、炎球ファイヤーボールだ。魔法が上手い人は何個も飛ばせたり、もっとでかい火の球を作れるらしいけどね。僕にはこれが限度だ。さぁやってごらん。」


 こうしておれの攻撃魔法練習が始まった。


 一時間ほど練習したところでなんとなくコツはつかめてきた。オデットさんの言うとおり魔力を一点に集中させること。一つの点に魔力を注ぎ、大きくしていくイメージ。そうすると徐々に魔力が集約し、直径10センチほどの火の球が出来るようになった。

 あとはこれを放つだけだ。放つといってもオデットさんのようにぶん投げる必要はない。ただ、手のひらと火の球が反発するように魔力の流れを意識するだけで、勢いよく魔法は飛んで行くことが分かった。


「すごいなバールくんは!魔法の才能があるよ!!僕が一年もかけて覚えたのにそれを一時間で覚えてしまうなんて!」

「いやぁ、教え方が上手いからですよ。」


 特に教え方が上手いなんて思ってはいないけれども才能があると言われ、気恥かしいのでオデットさんのことを褒めておこう。

 攻撃魔法か。村にいた時は一生使うことはないと思ったけれども、覚えてみるとなかなか面白い。魔法を極めていけば様々なことができるようになりそうだ。火だけでなく風を操れるようになれば空を飛ぶことだってできるんじゃないか?


「これなら魔物が来てもバールくんも戦えそうだな!」


 魔物とは人族との戦争時代に魔族によって生み出された生物だ。人族と戦うために作られ、基本的には知能は低く、動物のような本能的な行動をとるが、中には言葉を理解し、話すものもいる。

 戦争が終わり、人族を襲う必要のなくなった魔物たちは魔王の手によって人を襲わないようにおさえこまれたのだが。寿命が短く繁殖力の強い魔物は配合を重ねるにつれて独自の進化をしてきたようで最近では非常におとなしい生き物となっている。こちらから、魔物のなわばりに入ったり、むこうが相当お腹を空かせていなければめったに襲われることはない。

 ベジタ村に現れたのも一、二回程度だ。そのたびにオデットさんが退治してくれた。


「魔物に会うなんて、めったにない―――」

「ひいぃぃぃぃぃぃ!!でたぁぁぁ!!魔物だぁぁぁ!!」


 前方から副村長の叫び声がし、馬車が急停止する。


「ははっ!タイミングが良すぎるなっ!!」


 荷台からオデットさんが飛び降り、前方へと駆けていく、おれもその後を追った。

 前に出てみると、副村長は馬から落ち、腰を抜かして震えていた。馬はいきなりの魔物の登場に驚いたのであろう、興奮状態にあり、鼻をならしながら暴れている。


 そしてオデットさんは、馬の前に立ち二匹の魔物と対峙している。魔物はオオカミのような姿をしており、実際のオオカミより一回りほど大きい。その目には瞳がなく、目のすべてが赤色に染まっている。毛並みは濃い青色で前傾姿勢をとり、今にも飛びかかってきそうだ。


「グルルルルッッ」


 唸り声をあげ、魔物の一匹がオデットさんの腕に食らいつく。が、


「ぬん!!」


 筋肉に力を込めると腕が丸太ほどのサイズとなり、パキという音を立てて噛みついたオオカミの牙が折れた。


「ははっ!軟弱な牙だ!毎日牛乳は飲んでいるのかぁ!?」


 歯が折れ、ひるんだ隙を見逃さず、両腕で魔物の胴周りを抱きこみ、締め付ける。


「秘儀、鯖折りっ!!」


 腕から逃れようと魔物も爪を立てたり、折れた牙で噛みついたりと抵抗しているが、オデットさんには傷一つつかない。締め付ける力を強めていくと、じたばたと暴れている魔物も次第に動きが鈍くなり、ボキとにぶい音が聞こえると動かなくなった。


 毎日の筋トレってすごいんだな。体も鍛えれば鉄のように硬くなるってことか。ここまで鍛えるのにどれくらいの年月を費やしたのだろう。


「ガルッ・・」


 仲間がやられたせいか魔物の勢いがそがれている。魔物といえど仲間がやられたことには戸惑いを覚えるのだろう。


「かかってこないのかい?ならこちらからいかせてもらうかな。」


 距離を詰めようとした瞬間、魔物が走り出す、向かう先は対峙しているオデットさんではなく、おれの方へと何の迷いもなく向かって来た。


 魔物が口を開き、襲いかかってくる。鋭い牙がむき出しになる。

 おれが感じたのは魔物に襲いかかられる恐怖よりも、魔物に対する怒りだった。


 この野郎っ・・!

 三人の中でおれが一番弱そうだからってターゲットを変えてきやがった。オデットさんはともかく、腰を抜かしている副村長より弱くみられるとは心外だ!

 しかし、この状況はやばい。身を守るものは何もないし、このまま茫然と立っていても喰われるだけだ。何とかしないと。


 とっさに手に魔力を込めて火の球を作り出す。


「いけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 魔物の顔面に向けて放つ、真っ直ぐに突撃してくる魔物に炎球ファイヤーボールがぶつかりはじけ飛んだ。

 獣の焼けた臭いが辺りに漂う。炎球に当たったことにより数メートル吹き飛ばされ、ぐったりと倒れている魔物。頭は半分無くなっており、その周りは黒く焼け焦げていた。


 おれが魔物を倒したのか。身を守るために無我夢中でやったことなのであまり、実感がわかない。魔物を倒し、危険が去り、緊張の糸が切れたのか、その場に膝から崩れ落ちてしまった。足に力が入らない。手も少し震えている。

 なんだかんだいっても初めて魔物と正面から対峙して怖かったのだろう。今になって自分が死ぬかもしれなかったという恐怖が頭を埋め尽くした。


 数時間前まで畑を耕し、野菜を愛でていたおれが、魔法を覚え、覚えたての魔法で魔物を撃退した。たぬきと戦うことが精いっぱいだった、おれがだ。自分でも信じられない話だ。


 へたりと座りこんでいるおれにオデットさんが駆け寄ってくる。


「大丈夫かい!?バールくん!!怪我はないかい!!」


 身体を確認するが、かすり傷ひとつない。


「・・・・・怪我はないです。」

「怪我はなかったか、本当に無事でよかった・・・・。」

「バールくんすまなかった。安全確保は私の役割なのにキミを危険にさらしてしまった。護衛失格だ。」


 そう言って頭を下げるオデットさん。

 悪いのはオデットさんじゃない。戦闘能力がほとんど無いにもかかわらず、魔物の前に出て行ってしまった自分だ。荷台で大人しく待っていれば、危険にさらされることはなかっただろう。


「謝らないでください。オデットさんは悪くありません。魔物の前に出て行ったおれが悪いんです。それにこうしておれが生きていられるのも、オデットさんが教えてくれた魔法のおかげですよ。」


 頭を上げたオデットさんの筋肉は少し小さくなっているように感じた。


「バールくん、ありがとう。僕はね、君のことを息子のように思っている。息子を危険にさらす父親がどこにいるだろうか・・・。こんなことがもうないように気を引き締めるよ。」


 息子と言われて素直に嬉しかった。ベジタ村に飛ばされ、面倒をみてくれたオデットさんやミヨさんのことは本物の両親のように感じていた。

 嬉しいのだけれども、この気持ちを言葉にすることは難しい。それでもなにか伝えないといけない。


「おれも・・オデットさんのことを本物の父親だと思っています・・。」


「そうか・・・・!」


 オデットさんの筋肉が膨張していくのが分かる。

 お互いになんとも言えず、こそばゆいが、嫌な気持ちじゃない。むしろ暖かい気持ちだ。はにかんだような笑みが溢れてくる。



「おーーーい、魔物も倒したし、そろそろいくぞー。」


 先程まで腰をぬかしていた副村長が馬にまたがり、もう出発の準備を整えている。立ち直りの早い人だ。


 おれもオデットさんに手をひかれ立ちあがり、荷台へと乗り込んだ。


 馬車はゴルトキアへの道を再び走り出す。


 魔物と対峙したことを思い出すと手が震えたが、自分でも魔物を倒せる。何かあった時に村や畑を守ることができる。小さな自信のようなものが芽生え、それを震える手のひらの中でギュッと握りしめた。


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