自動世界と元家畜
まるでだだっ広い箱の中に整然と並べられた棺桶が無数に置かれた部屋の中で少年は目を覚ました。やっと人間になれたというのに産声も上げず、焦点の合わない眼で部屋を呆然と見渡す。
状況も分からず、あまりの非現実さが混乱を超えて冷静さを保たせてくれた。
少年は歩き始めた。産声も上げずに産道を歩き、へその緒はどこかに忘れたようだ。
僕らは産声を上げ、泣いて生まれる。そしていつかは泣かれて死んでいく。それが人類のスタートでありゴールだと人類が忘れてしまったのはいつからだろうか。やたら寒い廊下を延々と歩きながら出口を探す。内部構造を記す地図も無ければ、案内してくれる矢印もない。ただただ無装飾な鉄の道を当てもなく歩く。
「・・・・・・っ」
長い間声帯を使ってなかったせいかうまく声が出ない。体中のあらゆる筋肉が退化しており、走ると骨が折れるくらいには体が退化している。生まれて初めて体感する痛覚にもそろそろ慣れてきた。しかし、退化した体には移動すら堪えたようでまるで動けなくなってしまった。
なぜ俺は夢から覚めたのだろう。無数のコードが繋がれている鉄の棺桶のようなものから俺一人だけ出されたのは何故なんだろう。隣の棺桶にも誰かが入っているようだった。広い部屋の中、誰一人として中から出てこないのはとても奇妙だった。