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来週は、どちらかというと忙しくて。
なんとか開いている1日を見つけて電話することに。
prrrr.....
『はい、春名です。
お時間決まりましたでしょうか?』
「あ、はい。20日の午後2時以降でしたら開いているのですが…」
『…あら、山風さんではないんですね。』
…え?
冷めたような、ちょっと低くなった声。
「あ、すみません…申し遅れました。
私、山風の秘書の工藤と申します。」
春名さんは「あ、そう。」
とだけ呟いて、あとは機械的な声だけが聞こえた。
…違和感と、増えたモヤモヤ感。
なんだろう、トゲがあるような、冷めたあの声は。
どこか引っかかりを感じながらも、
彼女をむかえる準備をした。
ガチャッ
「失礼します、春名です。」
「あ、お待ちしておりました。
こちらへどうぞ。」
そろそろ来る頃だろうと、
事務所でまっていると、春名さんは時間通りに来た。
真っ黒な黒髪。
肩につかないくらいの長さのショートボブカット。
耳には真っ赤なピアス。
真っ赤な口紅。
黒色のスーツ。
和ちゃんが前にくると、和ちゃんを上から下まで
まるで品定めのように見た。
「あなたが秘書さんですか?」
「いえ、私は経理です。
秘書は、彼女です。」
「こ、この度は、ありがとうございます。」
「いえ。前から山風さんの作品には興味がありましたので。」
そして、冷たい態度。
私のことも、品定めのように見て。
クスッとバカにしたように笑った。
隣で、和ちゃんがイラッとしたのがわかって、
宥めようとしたとき、事務所の扉が開いた。
「あ、すみません、遅れてしまって…」
「あら、いいんですのよ。
芸術家たるもの、色々ありますよね。」
くるりと振り返った彼女は、
先ほどまでの態度とは違いすぎて、唖然としてしまった。
沙耶ちゃんなんか、口が開きっぱなし。
「あ、どうぞあちらの席に…」
「あの…私、一対一でフラットに話しながら取材をしていくっていうのが拘りなんです。
できれば、二人っきりで…
山風さんが一番自然体でいられるアトリエとか…」
そういって、径くんの背中を押して、
出て行き際に、また私に向かって笑う。
モヤモヤ、ぐるぐる
黒い感情がとりまいた。