03
「兄ちゃん!」「にーにが来たよ!」「え?」
アルバが大荷物を持ち孤児院にたどり着くとアルバを認めた子供たちがアルバの方に走ってくる。この国での色のついた髪というのは珍しくない。自分の魔力の特性が髪の色に影響してくる体質はこの世界の住人にとっては当たり前のものだったが、やはり金髪に碧眼というアルバの容貌は目立つ。
アルバの姿を遠くからでも認識していた子供たちは心が浮き立つような足取りでアルバを待っていた。
「おいおいそんなに慌てるなよ、危ないだろ?」
「兄ちゃんそれ何?!」
「んー?まだ内緒」
「えーー!?」
アルバのことを実の兄のように慕っているこの子供はセキという。炎の魔法に特性があるのか髪の色は燃えるように赤々としている。
「ちょっとセキ!アル兄が困ってるでしょ!」
セキを嗜める少女はアニという。アニはセキと同じ時期に孤児院に来たせいか、セキを親しく思っているようだ。しかしその感情が友人に向けるものとは少し違うものだとはまだ本人も自覚していないところである。
そのほかの子供たちも親を亡くしたり、離れてしまった事実など微塵も感じさせないような笑顔でアルバにまとわりつきながら話しかけている。毎度のことながら子供たちの屈託のない笑顔には心が表れていくような気がしていく。
そこに孤児院院長のローザがやってくる。
「アルバさん!よくいらっしゃいました。子供たちもアルバさんが尋ねてくるのを楽しみにしていたのよ」
ローザの明るい声は子供たちに影響されてものだろうか。ローザは毎日の子供たちの世話や決して楽ではない孤児院の運営の疲労も感じさせない表情でアルバに話しかけた。黒髪が美しい妙齢のローザはアルバに微笑む。
「ローザさん。これ今月の」
そう言って食料品や道中かって言ったものを差し出す。
子供たちはそれを見るとワーッと歓声を上げた。
セキに感化された男の子達が我先にと手を伸ばそうとする。
「コラ!あんたたち!それは夕食のときでしょうが!」
ローザはさっきとは打って変わり鬼のような表情で子供たちを叱る。
「は、はいぃぃぃ…」
一番真っ先に飛びついたセキが青ざめた顔で声が尻切れトンボのようになる。
「分かればよし!楽しみにしてらっしゃいな」
まさしく太陽の様な顔で子供たちに声をかける。
「よしお前らまだ魔法の練習はしてたか?」
アルバは一連の会話を見て切り上げる様に子供たちに声をかける。
他の子供たちもはやくはやくと急かす動作でアルバに注目している。
「当ったり前だろ!兄ちゃんに教えられたことは全部習得したぜ!」
セキが胸を張るようにドヤ顔でアルバに自慢する。
「あ、あたしも練習してたよ!」
負けじとアニも主張する。
「よし、じゃあ次の段階に移行しようかな」
「次の段階って?」
「治癒魔法だよ。魔力操作の練習はしてたはずだからお前らの技術だったらいけるはずだ」
治癒魔法と聞いて子供たちは色めきだつ。まだまだ遊びたい、暴れたい盛りの子供達にとって治癒魔法は日々の擦り傷や捻挫などは特に困ってはいないが治せることができたら便利なものであった。
ある程度の年齢になったら冒険者になる子供も多い。その中で魔物や盗賊などに襲われたときに治癒魔法があれば生存の可能性は格段に跳ね上がる。
治癒魔法は冒険者を目指す子供たちにとっては無くてはならないものであった。
「アル兄のは高度な治癒魔法だから私たちでも覚えられるかしら…」
アニが不安そうな顔でアルバに目を向ける。
「大丈夫さ。俺はこれでも昔は魔法教師になりたいと思ってたんだ…」
「えー?ほんとー?」
「さあな」
「もーっ!」
アニが冗談を言われてからかわれたのを気づき顔を真っ赤にしてアルバに抗議の表情を向けた。