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小刀を心臓に突き刺した瞬間少しのタイムラグがあり、心臓に異物が入った激痛にバルクの絶叫が広い部屋に木霊した。胸に手を持っていこうとしたバルクであったがその前に瞬時に小刀を引き抜き、同時に治癒魔法を
小刀が穿ったその穴の表面だけに施してゆく。
これにより一目見て外傷はないだろうと判断できる。しかし心臓本体は治していないので穴が穿たれたままバルクは大量に吐血しており、手足をバタバタとひくつかせ無駄に巨大なベッドからこぼれる様にその巨体を床にたたきつけるように転がり落ちた。バルクの絶叫が城中に木霊したおかげで廊下からドタドタと焦る様な声とともに足音が近づいてきた。
大臣ではない唯一信頼している部下が鍵を持っており、震える手で鍵を開けようとする。
今回の暗殺のもう一つのキモは『城主の部屋が密室であった』という事実を残すことにある。
城主は日ごろの運動不足や食生活が祟って一人で勝手に突発的に死んだだけなのだ。その事実があれば目の前で転げているバルクを見ても毒などが検出されない限り外傷もなく、突発死ということに片付けさせるのである。
アルバは魔力を最大限隠蔽魔法に注ぎ、部屋の隅に立った。その瞬間部下は鍵を開けることに成功し部屋に転がり込んでくるがそこには盛大に吐血し胸のほうを押さえているバルクしかいない。
部下は食事に含まれていたかもしれない遅効性の毒の可能性を考えたのか、解毒魔法を必死の形相でかけていたが、その努力もむなしく、バルクの叫び声はだんだんと力を失っていき最後には力尽きてしまった。
アルバはそれを確認すると部下の目の前を通り過ぎ部屋から退出する。
騒ぎを聞きつけた大臣を含めた他の部下が焦った様子で確認に向かっていくが、部下については純粋に何があったのか、城主様に何か問題でもあったのか、という表情をしていた。しかし大臣については本当に殺せたのか、突然死の用に見せかけているのかという不安な表情をしている。
当事者のアルバからしてみればそれが滑稽に見え、白い歯を覗かせた。集団はアルバを認識できるわけもなくすぐ横を通り過ぎると部屋に入っていく。後の段取りは大臣とその腹心が上手く巧妙にやるだろう。
アルバはそれを見届ける必要性がないことに気づき、早々ともう城主がいない城を後にした。
アルバの所属している暗殺団には名前がない。所属メンバーや構成人数、どこに拠点があるのかも全くの謎であった。唯一知っているのは暗殺団を統括している「頭領」と呼ばれる人物の存在だけであった。
報酬はこちらが指定されたところにいつのまにか置かれており、そこには次回の仕事があればここにこい、というメモ書きのようなものである。そしてそのメモ書きは指定した人物以外が読むと瞬時に炎が燃え上がり、指定した人物が読み終わるとそれを検知し、燃え消えるという徹底した隠蔽振りである。
今回は城主がターゲットということもあってか、かなり報酬に色がついていた。
アルバはそこから最低限度の金額を取り出すとその足で城下町に足を進めた。
行く先々で子供用の紙や筆、インク、本から果ては果物まで多様なものを買いながら目的地にたどり着く。