~組曲 “恋情” 第2楽章 “熱情”<アパショナータ>~ -2nd.-
――それは、革命の音。
「エマ」
朝のにおいが満ちる教室で、あたしは、その人に声をかける。
「…………」
まだ、他には誰もいない。
案の定、エマはこちらをみようとはしない。
代わりに、なめらかに輝く、蜜色にも似た、
アッシュブラウンの三つ編みが、
陶磁器のようにすべらかな肌に、さらりと揺れた。
「よく眠れたかしら?」
とあたしはその頬に触れようとする。
ぱしん、と払われたが、予想通りだったので気にしない。
「……みればわかるでしょ」
そう返すエマの眉間にはしわ。
目の下にははっきりとクマがあった。
「昨日の今日で……あなた、なんなの。
私には、もう、関わらないで、って言ったでしょ」
「それなんだけど」
「…………」
「撤回するつもりないから」
あたしはきっぱりと爽やかに言い切った。
「なん……」
エマが、こちらを向く。
「やっとこっちをみた」
あたしは、してやったり、と微笑む。
エマの暗緑の瞳は、ほんの少し丸くて、いっそう笑い出したくなる。
あたたかい気持ちが体を支配して、
その心のまま、エマの頬に、もう一度触れる。
「あなたがなんと言おうと、ぜったいに撤回するつもりないから。
拒絶しても無駄よ。
愛染烈火の名にかけて、あたしはあなたを手に入れるって決めたから」
「……あなた、正気?」
エマが、あたしの手を再び払おうとする。
だけど、その動きにさっきのような精細さはない。
それをいいことに、あたしは、もうひとつの手で、包むようにした。
「とっくに狂ってるわ。あなたの魅力にね」
「あなたって……変だわ」
顔をしかめ、口を押さえて、エマがいう。
「個性的、ってよく言われるわ」
「夏芽とは、全然、違うわ」
かすれた声で、エマは言う。
「……そりゃそうよ。
あたしは夏芽じゃないし……、
あいつにできなかったことを、やるために生まれて来たんだもの」
「……意味が、わからないわ……」
どんどんとげが弱くなり、小声になってゆくエマをみて、
思わず、気持ちが、溢れだしそうになる。
「……それだけあんたに惚れてるのよ」
今度は、少し、くだけて呼んだ。
苦笑と共に、はっきりと、甘さを混ぜる。
「……私を救って、あなたになんのメリットがあるの?」
抱きしめられたハリネズミみたいに、最後の抵抗をみせるエマ。
「……惚れた女に、尽くさない男はいないでしょ?」
笑って、言う。
「――ッ、惚れた惚れたって、気安くいって、本気っぽくないわ!!」
すねたように、エマが言う。
その表情がばつぐんに幼くて、思わず笑ってしまう。
ハリネズミのエマ。
強情っぱりで、素直じゃない。
押しても引いてもだめ。
なんて愛しい、なんて手強い、あたしの好きな人。
完全無欠の要塞。
とげだらけ毒まみれ……だった、少女。
……チェックメイトよ、とあたしは冷たくかたいそれを触る。
「ここまできて疑ってるの?
あたしは、あんたが好き。惚れきってる。
……まあ口ではなんとでも言えるし、行動でみせてあげるわ」
「……何を……」
じゃきん。




